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第三章 金田一耕助登場--金田一耕助登場(2)
日期:2023-12-21 13:58  点击:286

 しかし、私はなんだかそれだけでは満足出来なかった。八千代さんと蜂屋のあいだに、

表面に現われている事実以上の、深い諒解があったのかも知れぬということは、私も一応

承服しよう。

 しかし、蜂屋はなんだって守衛さんを殺したのだ。あの日のいさかいがもとになって、

怒りのあまり殺したというのか。

 いや、いや、いや、私にはどうしてもこの事件がそんな単純な性質のものとは思えない

のだ。

 第一、蜂屋と守衛さんといちど取りちがえられた屍体の身み許もと、あれは偶然だった

というのか。佝僂という人並みはずれた相似のうえに、さらにひそかに用意されていた、

太ふと股ももの傷というあの恐ろしい相似。……あれをしも偶然ということが出来るだろ

うか。

 否! 否! 否! 私はそこになんともいえぬドスぐろい、秘密のあやを感ずるのだ。

悪魔の知恵でつらぬかれた妖あやしいまでに綿密な計画を。……

 それはさておき古神家の殺人事件も、ここまで来るとピタリと停止してしまった。それ

はちょうどクライマックスに達したとたん、プッツリ切れたフィルムのように、関係者に

とっては妙にいらいらとした、落ち着かぬインターヴァルだった。しかも、はじめのうち

は潮しお騒さいのようにザワめき立っていた世間も、時がたつにつれてしだいにおさま

り、あとには変に白茶けた空白感がとりのこされた。

 直記の父、仙石鉄之進が郷里へかえるといい出したのはそのころだった。もっとも直記

にきくと、これは今年に限ったことではなく、毎年一度、鉄之進は必ず郷里へかえるのだ

そうである。それは郷里にのこっている、古神家のおびただしい財産の管理について、と

きどき、指図をしたり監督をしたりする必要があるからだろう。そしてその時期は避暑を

かねて、毎年夏に行なわれるのだが、今年は時期を早めて、四月のおわりにいくといい出

した。

 世間のおもわくもある事だからと、直記も一応はとめたらしい。しかし、鉄之進として

は、その世間があるからこそ、いっときも早くこの東京を逃げ出したいのだろう。警察の

ほうへはどういう風に諒解を得たのか知らないが、結局、鉄之進は四月二十日に東京を出

発した。一行は鉄之進のほかにお柳さまと四よ方も太たの三人だった。ところがそれから

しばらくして鉄之進から、小間使いのお藤をよこせといって来た。お藤一人を旅立たせる

わけにはいかぬから、直記がそれをつれていった。

 ところが直記はかえって来ると、

「思ったよりいいところだよ。第一、世間の雑音がきこえないだけでもいいや。どうだ、

寅とらさん、君もいっしょに行かないか。おれはこの夏向こうで暮らしてみるつもりだ」

 私はさぐるように直記の顔を見た。

「だって、そりゃ……事件のほうはどうするんだい。そんなことをするとみんなして逃げ

出すように思われやアしないか」

「逃げ出すのさ、正直な話が……はっはっは、世間がなんと思ったって構うもんか。おれ

はもうこの事件にゃあうんざりしてるんだ」

「だって、君たちの留守中に、八千代さんがかえって来たら……?」

「かえって来るもんか、あいつ! ねえ、寅さん、君はまだ八千代が生きていると思って

いるのかい。八千代という女はね、絶対に不自由な暮らしに耐えていくことの出来ない女

なんだぜ。蜂屋にどんなに惚ほれてたって……疑問だがね……浮世はなれて奥山住居なん

て、しゃれたことの出来る女じゃ絶対にないんだ。すぐイヤになって、イヤになったが最

後、どんな危険なことがあっても、ノコノコとかえって来る女だ。そういうふうに見境の

ない女なんだ、あいつは。それだのにいままで出て来ないところを見ると……」

「死んだというのかい? つまり蜂屋と心中したというのかい?」

「死んだか、殺されたか……」

 私はドキリとして、思わず直記を見直した。

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