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第三章 金田一耕助登場--海勝院の尼(1)
日期:2023-12-21 14:00  点击:274

海勝院の尼

 鬼首村と書いておにこうべ村とよむ。

 どうしてこのような奇妙な名前がついたのかしらないが、由来、岡山県というところ

は、鬼の字のつく地名の非常に多いところだそうである。それは多分、四道将軍の事跡に

由来しているのであろうといわれている。当時、将軍にはむかった賊はすべて鬼と目され

ていたところから、この地方でも、賊の首しゆ魁かいかなにかが首をはねられ、どこかに

埋められたのだろうと伝えられている。

 そういう大昔の話はどうでもよいが、私にはこの村の名に首という字のつくのが、妙に

無気味に感じられる。そもそも私を思いもかけずに、先祖の地へおびき寄せたこの事件と

いうのが、首にふかい関係を持っているのだ。ああ、思い出してもゾッとする。首無し死

体の恐ろしさ! そして、さらにまた、のちに発見された生首の、何んともいいようのな

いおぞましさ、いやらしさ! そして、ひょっとするとそれらのことのすべてが、この村

の名と、何かふかい関係をもっているのではあるまいか。……

 それはさておき、私たちが村へ入ったときには、初夏の汗ばむような日もすっかり暮れ

て、鬼首村の北を劃かくする山丘地帯の空のあたり、ものすごい稲妻の閃せん光こうが、

ひっきりなしに走っているのが望見された。おりおり遠く、車をころがすような雷鳴もき

こえた。

「や、これは……北のほうはものすごい夕立らしいですな。ひょっとすると、こっちのほ

うへもやって来るんじゃありませんか」

 金田一耕助というのは妙な男だ。私たちから邪魔にされていることを知っているのかい

ないのか、少しも気にならないふうである。子供のように牛車から足をぶらぶらさせなが

ら、北の空をのぞんでいるところを見ると、図々しいというのか、人懐っこいというの

か、ちょっと見当のつきかねる人物である。

「なあに、降るならいちど、天地がひっくりかえるほど降ってくれるほうがいいんだ。な

んしろ今年はひどい乾きかたで、みんな大弱りしているんだからな」

 直記の声にはどこか相手をきめつけるような調子があった。

 それから間もなく私たちをのせた牛車は古神家の勝手口の外へついた。

 古神家の大きなお屋敷は、村の北方にある小高い丘のうえにあり、背後はふかい竹たけ

藪やぶをとおして、そのまま裏の山丘地帯につらなっている。のちに聞いたのだが、この

丘は俗に御陣屋跡といわれ、昔からここに古神家の藩はん邸ていがあったのだが、明治時

代にいちど焼けたのを、復興したのだといわれている。したがって昔にくらべると、大分

規模が小さくなっているそうだが、それでも古ぼけた練塀のなかに聳そびえている杉の大

木には樹齢三百年というのもあり、いかさま古いお屋敷と思われた。

「古神家勝手口」と書いた金網張りの、どこか軒のき行あん燈どんのような感じのする軒

燈をくぐって、勝手口の小門から入っていくと、内玄関までいく途中の小屋に、鳶とび口

ぐちだの、縄なわ梯ばし子ごだの、ちかごろでは絵のうえでしか見られない水鉄砲だのが

かかっているのも珍しかった。

「君、君」

 直記は横柄な声で金田一耕助を呼びかけると、

「君は親おや爺じの客だからそこから入っていきたまえ。そこに銅ど鑼らみたいなものが

ブラ下がっているだろ。それを叩たたけば誰か出て来るだろう。屋代、われわれはこっち

へいこう」

 直記はすたすたと暗いほうへ歩いていく。

「仙石、ぼく、お父さんに挨あい拶さつしなくてもいいのかい」

「いいよ、親爺はどうせ酔っ払っていらあ。挨拶なら明日でもいい」

 建物の角を曲がると、胡ご麻ま穂ほの垣根がある。その垣根の枝し折おり戸どをくぐっ

て中庭へふみこんだとき、うしろのほうでボアーンとにぶい物音がきこえた。金田一耕助

が銅鑼をたたいて訪うているのであろう。なんとなく陰気な音だ。

 中庭へはいると雨戸をとざした縁側の欄らん間まから明るい光がもれているのが見え

た。

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