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第三章 金田一耕助登場--海勝院の尼(3)
日期:2023-12-21 14:02  点击:302

 そこへ、軽い、あわただしい足音をさせて、見覚えのあるお藤が入って来た。

「お帰りなさいまし。ちっとも存じませんで……」

 お藤は障子の外で挨あい拶さつをすると、

「あの、海勝院の尼さんが、ちょっとお眼にかかりたいとおっしゃって……」

「うん、わかってる」

 直記は不機嫌な声でお藤の言葉をさえぎると、素早い視線でちらっと私の顔色をうかが

いながら、ちょっと思案をしているふうだったが、

「よし、それじゃ会って来よう。早く追っ払わぬとうるさくってかなわん」

 と、半ばひとりごとのようにいい、

「お藤」

「はい」

「屋代に着物を出してやれ。それから……風呂はわいてるだろうね」

「はい、ちょうどよい加減でございます。お入りになりますか」

「いや、おれは止よそう、今夜は大儀だ。それより屋代を案内してやれ」

 直記はなんとなく、あとに心の残る風ふ情ぜいだったが、それよりも座敷のほうが気に

なるらしく、とうとう思い切ったように部屋を出ていった。

「お藤さん、久しぶりだね」

「あら、ほっほっほ、御挨拶もいたしませんで……いらっしゃいまし」

「いや……また当分御厄介になるよ。だけど君はえらいね。よくこんな山の中までやって

来たね。淋さびしくないの」

 お藤は無言のまま、浴衣ゆかたのうえにどてらを重ねて、襟をそろえていたが、

「さあ、お召更えを……」

「やあ、有難う」

 お藤は私のうしろにまわって、着物を着せてくれながら、

「屋代さん」

「うん」

「あたし淋しいのはまだいいんですけれど、何だか怖こわくて」

「怖い……? ああ、そうそう、八千代さんがかえっているんだってね」

「まあ、御存じでしたの」

「ああ、さっき直記から聞いたよ。それから蜂屋がこのへんをうろついているというじゃ

ないか」

「ええ、そうなんですの。だから、あたしいっそう気味が悪くって……屋代さん、何かま

た、恐ろしいことが起こるのじゃないでしょうか」

 それに対して私はなんとも答えられなかった。起こらぬとは断言しかねる。さりとて起

こるといえばいたずらに、この若い娘をおびやかすことになるだろう。お藤はまえから、

女中には惜しいような縹緻きりようだったが、春以来のこの事件でいくらか面おも窶やつ

れしているのが一種の凄せい艶えん味を加えて、それがかえってあわれであった。

「八千代さんはどこにいるの。やっぱりこの離れ」

「ええ、離れのずっと向こうのほうのお部屋」

「このお屋敷、ずいぶん広いんだね」

「ええ、だから、いっそう心細いんですわ。広いわりに人が少ないもんですから、何が

あっても、わかりゃしませんもの」

「君は母おも屋やと両方かけもち」

「ええ、あっちのほうには留守番のかたやなんかいるんですけど、田舎のひとでしょう。

だから、やっぱり奥様やなんかに気に入らなくて……それであたしが呼びよせられたんで

すけど、八千代さんが帰っていらしてからは、そのほうも見てあげなきゃなりませんか

ら……」

「そう、八千代さんのことはひとにまかせるわけにはいかないからね。で、まだ誰も八千

代さんのこと、気がついていないの」

「ええ、幸いお屋敷が広いものですから……でも、あの方、なんといいますか、あんな無

茶なかたでしょう。それに半分やけになっていらっしゃるんですから、なにをしでかすか

わからなくてハラハラしますわ。ねえ、屋代さん、こんなことが警察へわかったら、あた

しどうなるでしょう」

 お藤の不安はかかってここにあるらしく、いまにも泣き出しそうな顔色であった。

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