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第三章 金田一耕助登場--海勝院の尼(4)
日期:2023-12-21 14:02  点击:300

「なに、君は大丈夫だ。いざとなったら何もかも主人に押しつけてしまえばいいのさ。と

きに八千代さんはぼくの来てることを知ってるかしら」

「それは御存じでしょう。若わか旦だん那ながきょうお迎えにいらっしゃるとき、そう

おっしゃってたようでしたから」

「いま、何をしてるの」

「さあ、さっき寝床へお入りになったようでしたが……」

「それじゃ今夜は会えないね」

 私は淡い失望を感じた。私にはまだ八千代さんという女がよくわからなかった。何かし

ら世の常でない、ズバ抜けて異常な性格をもった女……と、ただそんなふうにしかわかっ

ていない。そして、私が八千代さんという女に心をひかれるのは、主としてそんなところ

にあるらしい。一皮むけば、ただの女なのかも知れないと思いながら……。

「ときに今夜、母屋のほうに、お客さんがあるようだね」

「ええ」

「あれ、どういう人? 仙石のおやじが呼びよせたんだってね」

「ええ、あたしもびっくりいたしました。そんなこと、ちっとも知らなかったものですか

……あの方に、あなたがたのお着きになったことを伺いましたの。御一緒だったんで

すってね」

「うん。……いったい、あれはどういう男なんだい。金田一耕助とかいったが……」

「あたしもよく存じません。いま向こうで旦那さまとふたりきりで、何か話していらっ

しゃるようですが……」

 私はなんとなく心が騒いだ。仙石のおやじはなんだってあんな男を、わざわざ遠方から

呼びよせたのだろう。そのことと今度の事件と、何か関係があるのだろうか。……だが、

私にはそれよりも、もっと訊ききたいことがあった。

「ときに、さっきの尼さんね、海勝院の尼さんとかいった……」

「ええ、海勝院の妙照さんとおっしゃるんですって」

「その妙照さん、ときどき直記のところへやって来るの」

「いいえ、今日はじめてですわ。あたしもびっくりしましたわ。だしぬけにいらして直記

さんにお眼にかかりたいって……いったい、若旦那はいつあんな尼さんと御懇意になられ

たのでしょうかね。こっちへいらしてまだ間もないのに……」

「海勝院て、この村にあるの?」

「さあ……ああ、そうそう、足長の海勝院といってましたわ」

「何んだい、その足長というのは……?」

「隣村の名なんです。ほんとにこのへんの村、変な名前ばかりですわね。鬼首だの足長だ

……五里ほど向こうには手長村というのもあるんですって」

 お藤は、心細そうにわらった。

「いったい、足長村海勝院の妙照さんが、直記のやつに、どんな用があるのだろう」

「さあ、あたしにもよくわかりません。若旦那にあって直接に話すとおっしゃって……」

 そこへ直記が座敷のほうからかえって来たので、私たちの話はブッツリ途切れた。直記

は私たちの顔をさぐるように見み較くらべながら、

「なんだ、まだ風ふ呂ろへ入ってなかったのかい」

 どこか嚙かみつきそうな調子である。

「ああ、久しぶりだから話がはずんでね。お客さん、かえった?」

「うん」

「そう、じゃ、ひと風呂浴びて来ようかな。君はどうなの」

「いや、ぼくは止そう。なんだか今夜はたいぎになった。お藤、屋代が風呂を出たらいっ

ぱいやるから……」

「はい、それでは屋代さん、御案内しましょう」

 風呂からあがって、直記と差しむかいでいっぱいやっているころ、俄にわかに物もの凄

すごい物音とともに大雷雨がおそって来た。あとから思えばこの大雷雨こそ、あの恐ろし

い惨劇第二幕目の前奏曲だったのだ。ああ、思い出してもゾッとする。はためく稲妻、と

どろく雷、車軸を流すような大夕立のなかで演じられた、あの血みどろな大惨劇……い

ま、その第二幕がひらかれようとしている。

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