行业分类
第三章 金田一耕助登場--官能的な風景(2)
日期:2023-12-21 14:04  点击:292

「はなせ、はなせ、四方太、離さぬと貴様もいっしょにぶった斬ぎるぞ」

「ま、ま、まあ、いいから仙石、気を鎮めなさい。そ、そ、そんな無茶な……これ、危な

いがな。危ないがな」

「危ないのは承知のうえだ。このあま、ぶった斬ってくれる。ふてくされやがって……こ

れ、お柳、何とかいわないか」

 しかし、お柳さまの声はきこえなかった。私たちが急いで化粧の間へとびこんでみる

と、寝所のなかでは大立ち廻まわりの最中だった。厚い絹夜具のうえに仁王立ちになった

鉄之進は、左手でお柳さまの髪の毛をひっつかみ、右手にドキドキするような日本刀をふ

りかぶっている。その手に四方太が必死となってしがみついていた。

 こういう情景を見た刹せつ那な、私はみぞおちのあたりが固くなるような恐怖をおぼえ

る一方、何んだか吹き出したくなるような滑こつ稽けいな感じを押えることが出来なかっ

たのも事実である。

 みんなで芝居をやっている! そんな感じが一瞬強く来たからである。むろん、みんな

はじめから芝居をするつもりではなかったであろう。鉄之進の怒りにも、お柳さまのあの

えたいの知れぬ無表情な恐怖にも、四方太の痴呆らしい狼ろう狽ばいぶりにも、一応の真

剣さはあるだろう。しかし、その真剣さに限界があった。

 鉄之進は伊勢音頭の貢みつぎのように、白地の寝間着のまえをひろげ、太ふと股ももか

ら褌ふんどしまで丸出しで、血走った眼といわず、全身の皮膚といわず、ヌラヌラとした

酒気と怒りが浮き出しているが、ふりかぶった右腕は、たとえ四方太の制止がなくとも、

ふりおろす気のないことはまずたしかである。うしろから髪をつかまれたお柳さまは匹ひ

つ田たの長なが襦じゆ袢ばんの裾をみだし、ムッチリとした乳房や膝ひざ頭がしらもあら

わに、必死となって両手で髪をおさえているが、これまた、どうしたら見た眼によい恰か

つ好こうがつけられるか、そんなことを考えているように思われた。知恵おくれの四方太

でさえが、内心加古川本蔵を気取って得意になっているように見えるのだ。私はなんだか

田舎いなか芝居の一場面か毒々しい泥絵具の絵看板でも見ているような気持ちだった。

ペッと唾つばを吐きたくなるようなイヤらしさなのである。

「お父さん、何をしているのですか」

 鶴つるの一声とはまったくこのことだった。直記の声をきくと、鉄之進の体がピクリと

ふるえた。こちらをふりかえって直記の姿を見たとたん、脂あぶらぎった鉄之進の顔は、

まるでベソをかく子供のように歪ゆがんで来、ふりかぶった腕からみるみる力が抜けて

いった。

「何んです。そのざまは……いい年をして恥ずかしいと思いませんか。小父さん、その刀

をもぎとってしまいなさい」

 鉄之進の手から刀をもぎとると、四方太は落ちていた鞘さやにパチンとおさめた。

「直記さん、この刀はどうしましょう。ここらへおいとくとまた危ないがな」

「こちらへ貸しなさい。まったくなんとかに刃物とはこのことだ。危なくて仕様がありゃ

しない、寅さん」

「うん?」

「この刀は、君にあずけておく、保管しておいてくれたまえ」

「僕が……? 君があずかっていればいいじゃないか」

「いや、僕にも自信が持てないんだよ。おれにもおやじの血が流れているんだからな。い

つ刀を持って踊り出したくなるかも知れたものじゃない。あっはっはっ」

 その笑いかたがあまり毒々しかったので、私は思わず直記の顔を見直した。直記は私の

視線を避けるようにして、お柳さまのほうに向き直ると、

「お柳さま、あなたも少したしなんだらどうです。七つや八つの子供でもあるまいに」

「だって……」

 お柳さまはすましこんで衣紋をつくろい、乱れた髪を直している。長襦袢の下から膝頭

が出ているのに気がつくと、あわてて裾すそをかきあわせた。

 鉄之進は絹夜具のうえにべったりと尻しりを落として、ぜいぜいと肩で呼吸をしてい

た。

小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/21 15:48
首页 刷新 顶部