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第三章 金田一耕助登場--官能的な風景(3)
日期:2023-12-21 14:04  点击:285

「だってもへちまもありませんよ。おやじの酒癖はあなたもよく知っている筈はずじゃあ

りませんか。少しは上手にお守りが出来ないものですかねえ」

「だってねえ、向こうでお藤をあいてにさんざっぱら酒を飲んだあげく、ここへ押しかけ

て来て……酒臭いからいやだというと急にあばれ出して……ほんとに気が狂っているとし

か思えないわ。いやになってしまう」

 お柳さまはこともなげにいう。私はなんだか全身がムズ痒がゆくなるような感じだっ

た。お柳さまの声の中に何かしらゴロゴロと咽の喉どを鳴らす牝猫のような感じがあった

からだ。お柳さまの全身から、いやらしいほどの色気が発散していたからだ。お柳さまは

あきらかに、いまのいきさつから情欲をかき立てられ、全身の毛け孔あながうずくように

パッとひらいて、来たるべき官能の満足を楽しんでいるのだ。

「チョッ!」

 直記がきたないものでも吐き出すように舌を鳴らした。

「おい、寅さん、いこう。小父さん、あなたもおいでなさい」

 廊下へ出ると四方太が、心配そうにあとをふりかえって、

「直記さん、大丈夫かな。あのまま二人をおいといても、何か間違いは起こりゃしないか

な」

 と、心配そうに訊たずねる。

「大丈夫ですよ。あの二人もだんだん麻ま痺ひして来て、ああいう刺激でもなければ満足

出来なくなっているんです。何も心配することはない。口く説ぜつのあとはお楽しみも

いっそう味が濃いというじゃありませんか。あっはっは、こっちこそいい面の皮だ」

 直記のいうことがわかったのかわからないのか、四方太はきょとんとして廊下に立って

いる。

「さあ、さあ、心配することはない。あなたも向こうへいっておやすみ。お藤、おまえも

部屋へかえって寝なさい」

「はい」

 お藤が廊下の障子をしめるとき、ふと奥の寝所をふりかえると、お柳さまがしどけない

恰好で、あいの襖ふすまをしめるところだった。私はまた、全身がかあっと火ほ照てっ

て、身内のムズ痒くなるのを覚えた。

 私たちはお藤や四方太と別れて、もとの離れへかえって来た。こういう騒ぎのあいだ、

八千代さんはよく寝ているのか、ついに姿を見せなかった。

「仙石、この刀はどうするのだ」

「ああ、それ……今夜はともかく、君の部屋へあずかっておいてくれたまえ」

「そりゃ困るな」

「困る……? どうして。何も困ることはありゃしないじゃないか。あっはっはっ、君は

今夜、何かまた起こるとでも思っているのかい? 何も起こらないよ。明日になったら何

んとか処分をかんがえるから、今夜はともかく君が保管していてくれ。ああ、眠い、おれ

はもう寝るよ。君も早く寝たまえ」

 直記はさっさと自分の部屋へ入ってしまった。

 私も仕方がなしに自分の座敷へかえると、床の間へ刀をおいて、そのまま寝床へもぐり

こんだ。大雷雨はまだつづいている。いや、つづいているというよりも、ますますはげし

くなるばかりだった。私は眠ろうとして眼をつむったが、さっきのお柳さまの姿態が、妙

に官能を刺激して、なかなか眠れそうにもなかった。

 しかし、そのうちに昼のつかれが出て来たのか、私はやっとうとうとしはじめた。そし

て、それからどのくらい時間がたったのか、何んでもそのとき、私は怖こわい夢を見てい

たようだ。胸のうえに万貫のおもしをのせられたようで、声を立てようとしても舌が思う

ままにならない。手足を動かそうとしても動かない。私は全身から熱汗をふき出す感じ

で、必死となってこの金縛りとたたかっていたが、そのときである。廊下の障子をひらい

て誰かがスーッと入って来た。いや、夢と現実の境で、誰かが入って来たのである。その

ものはくらがりの中で、しばらく私の寝息をうかがっていたようだが、やがてまた、音も

なくスーッと部屋を出ていった。

 私がやっと金縛りを解いて現実の世界へかえったのは、それから間もなくのことであっ

た。私はしばらく夢心地でいまのはほんとうに人が入って来たのだろうか、それとも夢の

なかに描き出された幻想なのだろうか……と、うつらうつらと考えていたが、そのときど

こかで雨戸をあけるような音がしたので、私はパッと、蒲ふ団とんを蹴けってとび起き

た。

 そして電気をつけて床の間を見た。

 床の間からさっきの刀が姿を消していた。

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