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第三章 金田一耕助登場--竜王の滝(1)
日期:2023-12-21 14:04  点击:229

竜王の滝

「おい、仙石、起きてくれ。大変だ。変なことが起こったのだ!」

 私に叩たたき起こされて、

「どうしたのだ。何かあったのか」

 直記もびっくりしたように、寝床のうえにとび起きた。そこで私が手短かに、いまの話

をきかせると、直記も大きく眼を見張って、

「なに、刀がない?」

 と嚙かみつきそうに叫んだが、

「よし、いってみよう」

 直記はすぐに私の部屋へ入って来た。

「この床の間に立てかけておいたのだね。そして、誰かが入って来たような気がす

る……? それから雨戸のひらく音をきいたというんだね。ひとつ、調べてみよう」

 果たして廊下の雨戸が一まい開いていて、そこから吹きこんでくる雨に、縁側がびっ

しょり濡ぬれている。そこは宵に尼あまさんが待っていた座敷のまえである。

 外は猛烈な稲妻だ。直記はその稲妻のなかをすかしていたが、

「ちょっと待っていてくれ。おれ、向こうを調べて来る」

 直記は足早に廊下を曲がっていったが、間もなく真まっ蒼さおな顔をして引きかえして

来た。

「やっぱりそうだ。八千代が病気を起こしたんだ」

「八千代さんが……? いないのかい?」

「うん、寝床のなかは藻も抜ぬけの殻からだ。でもまだぬくもりが残っているところを見

ると、出ていってから、それほど時間がたっているとは思えない」

「それじゃ、八千代さんが刀を持ち出したというのかい」

「そうだ、あいつさっきのおやじの騒ぎを見ていたにちがいない。それでまた、刀のこと

が気になったんだ。そこでふらふら、例の病気を起こして、君の部屋から刀を持ち出して

どこかへかくすつもりで……」

「このまま放っておいてもいいのかい?」

「まさか放っておくわけにもいくまい、とにかく、あとを追ってみよう」

 私たちはいったん部屋へ引きかえすと、洋服に着かえてとび出した。この横なぐりの雨

では傘をもっても駄目なことはわかっていたが、幸い私は防水布でつくったレーンコート

を持って来ていた。直記も同じいでたちである。

 外はあいかわらずの猛烈な大雷雨で、ときどき抉えぐるような稲妻が、家や山や、立ち

騒ぐ木々の梢こずえを浮き彫りにする。耳を聾ろうする雷鳴が、カチカチと私たちの頭上

で炸さく裂れつした。

「おい、どっちへいくんだ」

「とにかく、屋敷のなかを捜して見よう」

 離れから垣根を越えて、母おも屋やの裏側までやって来ると、ふいに家の中から声をか

けられた。

「おや、どうかなすったのですか」

 びっくりして振り返ってみると、厠かわやの窓から覗のぞいているのは金田一耕助だっ

た。私たちは思わず顔を見合わせた。

「この嵐あらしの中をいまごろどこへいらっしゃるんです」

 金田一耕助が怪しむのも無理はない。しかし、それに対して私たちは何んと答えられよ

う。八千代さんのことは家人以外、絶対に誰にも喋しやべれないことになっているのだ。

 私たちが顔を見合わせていると、金田一耕助がまた声をかけた。

「ひょっとすると、あなたがたは、さっきの婦人のあとを追っかけているのではありませ

んか。それなら、そこから左のほうへいったようですよ」

「えっ、それじゃ君は見たんですか」

「ええ、見ました。さっきこの厠へ来て、用を足しながら外を見ていると、真っ白な着物

を着た婦人がフラフラと窓の外を通りすぎたのです。それで僕、大急ぎで着物を着かえて

来て、いま、あとを追っかけようと思っていたところです。ちょっと待って下さい。僕も

いっしょに行きましょう」

「おい、いこう」

 直記がふいに私の腕をひっぱった。

「あいつを待っていることはない」

 金田一耕助に教えられたとおり、私たちはそこから道を左へとって進んだ。すると深い

杉木立の奥に小さな木戸があったが、木戸が風にあおられて、バタンバタンと鳴っている

ところを見ると、八千代さんはここから出ていったにちがいない。

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