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第三章 金田一耕助登場--竜王の滝(2)
日期:2023-12-21 14:05  点击:305

 木戸の外は屋敷の背後を覆う竹たけ藪やぶの丘だ。その竹藪のなかに一筋の小こ径みち

がついている。私たちはその小径を走っていった。

 私たちはめいめい、懐中電燈を持っていたが、ほとんどその必要もないくらい、頻ひん

繁ぱんな稲妻のひらめきである。

「八っちゃん、八っちゃん、どこにいるんだ」

 直記は走りながら口に手を当てて叫ぶ。しかし、この雷鳴、この風の音、そしてまた、

降りしきるこの豪雨のひびきで、その声は直記の口を出るやいなや、どこかへ搔かき消さ

れてしまった。よしまたそれが八千代さんの耳にとどいたところでなんとしよう。相手は

夢遊病者ではないか。

 竹藪の丘を抜けると山路だ。楢ならや櫟くぬぎにおおわれた山のあちこちが開墾され

て、段々畑に薯いもの蔓つるが植えられている。

「どっちへいったろう」

「とにかく、もう少し山を登ってみよう」

 うねうねと曲がりくねった径を登っていくと、何やら足にさわったものがある。拾いあ

げてみると刀の鞘さやだった。私たちは思わず顔を見合わせた。

「この径をのぼっていったんだね」

「うん、しかし、刀の鞘をこんなところへ落として、抜身のままさげていったんだろう

か」

 私は何んだか歯がガチガチと鳴る感じだった。危ない、危ない! 夢遊病者が抜身をさ

げて、もし転びでもしたらどうするのだろう。

「おい、急ごう」

「うん、急ごう」

 私たちはまた、真正面から吹きつける風雨とたたかいながら、必死となって足を早め

た。防水帽もぐっしょり濡れて、縁の周囲から滝のような滴が流れ落ちる。まるで盆を

ひっくりかえしたような大豪雨だ。

「おい」

 私は息をはずませながら声をかけた。

「なんだ」

「八千代さんはなんだって、刀を持ってこんな山をのぼっていったんだ。夢遊病者といっ

ても、全然意識がないとは思えない。いや、何かしら潜在する意識があるからこそ夢中に

行動を起こさせるのだろう。八千代さんは寝るまえに、あの刀を何んとかしたいと思った

のだろう。それが潜在意識となって、眠っているあの人を支配しているにちがいない。

と、すると、あの人はあの刀をいったいどうしようと考えているのだろう」

「うん、おれもそれをいま考えていたんだが……ひょっとすると、あいつの目指している

のは、竜王の滝かも知れない」

「竜王の滝というのは……?」

「この山の奥に大きな滝があるんだ。土地の人はそれを竜王の滝とよんでいる。おれも

こっちへ来て、いちど行って見ただけなんだが、八千代も家へかえるまえ、あのへんをう

ろついていたことがあるらしい。滝のことを話していたから……八千代はその滝たき壷つ

ぼへ刀を投げ込もうとしているのじゃないかと思う」

「この径をいけば、その滝へ出られるのかい」

「うん、滝の方へ出られるんだ。ほら、この谷の底を流れているのが、その滝から流れて

来る水だよ」

 私たちはいつの間にやら、深い谿けい谷こくの方へ出ていった。谿谷の底からは、ごう

ごうと岩を嚙かむ水の音がきこえて来る。私たちはひた走りに走って、この谿谷ぞいの径

を走っていたが、そのうちに直記があっと叫んで立ち止まった。

「ど、どうしたのだ」

「八千代が……」

「八千代さんが……八千代さんの姿が見えたのかい」

「うん、いまピカッと光ったろう。あのときずっとうえのほうで八千代のやつが……

あっ」

 そのとたん、また、マグネシウムをたくように、一いつ閃せんの光がパッとあたりを掃

いていったが、そのとき、私もはっきり見たのである。

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