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第四章 もう一人の女--もう一人の女(1)
日期:2023-12-21 14:09  点击:276

第四章 もう一人の女

  もう一人の女

 佝僂の瘤こぶとコムパクト──ああ、これはどういうことなのだ。

 誰かがあの奇妙な笊ざるを背負って、佝僂に化けていたことは、いまやもう疑いの余地

はない。しかし、それはいったい誰なのか。

 この事件の最初からの関係者は、いまぜんぶ鬼首村にあつまっている。しかし、それか

といって、それらの人物のなかに、昨夜、あの際どい瞬間に、佝僂に扮ふん装そうする

チャンスを持ちえたと思われるような人間はひとりだってありそうに思われぬ。

 あの稲妻の一いつ閃せんのうちに、佝僂のすがたを目撃したとき直記は私といっしょ

だった。したがって、あの男はまず第一に、この恐ろしい容疑から除外されねばならぬ。

これを逆にいうと、直記によって、私自身のアリバイも立証することができるわけだ。し

かも、何よりも有難いことには、私たちのすぐあとから追っかけてきて、同時に、あの巌

がん頭とうの佝僂を目撃した、金田一耕助が誰よりもそのことをよく知っている筈なの

だ。

 では、直記のおやじの鉄之進、お柳さま、四よ方も太た、お藤それらのひとびとはどう

であろうか。ひょっとすると、かれらのうちの誰かが、われわれよりさきに屋敷をぬけ出

して変装し、八千代さんを待ち伏せていたのではあるまいか。いや、しかしこの想像は不

合理である。なぜならば、八千代さんが昨夜、夢遊病の発作を起こそうなどとは誰が知ろ

う。ましてや、竜王の滝へ出向くであろうなどと予測することは、誰にだって不可能なの

だ。

 では、八千代さんのぬけ出すのをみて、誰かがあとをつけたのだろうか。いや、この場

合だって、可能性がうすそうに思われる。なぜならば、そういうことがあったならば直記

や私に、気がついていなければならぬ筈なのだ。私たちはあのすさまじい稲妻のひらめき

のなかに、いくどか八千代さんのすがたを目撃した。もし、八千代さんと私たちのあいだ

に、何者かが介在していたら、当然そのすがたは私たちの眼にうつらなければならぬ筈な

のだ。

 いやいや、こんなふうに廻まわりくどく考えるまでもないことだ。昨夜のような大おお

嵐あらしのなかを、竜王の滝まで往復すれば、きっとあとでわかる筈だ。それが問題にな

らないところをみると、昨夜、屋敷をぬけ出したものは、われわれ以外にないと見なけれ

ばならぬ。

 それでは、昨夜のあの佝僂はいったい誰だったのか。

 やっぱり蜂屋小市だったのか。

 そうだ、蜂屋が真実佝僂であったかどうかは、一時、世間でも問題になったことがあ

る。ひょっとすると、あれは戦後の異常な好尚に投じるための、一種の擬ぎ装そうだった

のではないかと取り沙ざ汰たされた。

 してみると、あの洞どう窟くつのなかに残された笊こそ、蜂屋の擬装のタネだったの

か。

 しかし、それではどうも私は納得がいきかねた。蜂屋の佝僂が擬装であったとすれば、

かれはあくまでその擬装を真実らしくみせかけなければならないのではないか。そうして

こそ、佝僂でない蜂屋は、世間の眼をくぐって生きていくことができるのだ。それに第

一、あの笊はあんまりお手軽にすぎる。蜂屋の佝僂が擬装であったとしても、擬装のタネ

は、あのような、お手軽な代しろ物ものであったとは思われぬ。

 ああ、わからない。昨夜の佝僂はいったい誰だったのか。……

「は、は、は、あなたにはそれがわからないのですか」

 耳のそばでささやく言葉に、私の空想はハタととぎれた。私はあまりの驚きに、文字ど

おりとびあがった。気がつくと、私といっしょに金田一耕助が歩いている。

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