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第四章 もう一人の女--もう一人の女(2)
日期:2023-12-21 14:12  点击:306

 そうだったのだ。私はそのとき、金田一耕助とふたりであの恐ろしい洞窟から、さらに

谿けい流りゆうをさかのぼり、山越しに、隣村なる足長村へおもむく途中だったのだ。

 足長村──金田一耕助はそこにどのような用事をひかえているのか知らないけれど、かれ

が足長村へいこうといい出したとき、すぐ私の頭にうかんだのは、海勝院という尼あま寺

でらのことだった。直記はその尼寺について、何か私にかくしていることがある。私はい

つか、足長村へ出向いていって海勝院の妙照という尼にあい、そのことをきいてみたいと

思っていたところなのだから、洞窟のなかで、あの異様な発見をしたのち、金田一耕助が

足長村へいこうといいだしたとき、一も二もなく、私は賛成したのである。

「え、え、いま何かおっしゃいましたか」

 私がドギマギしてききかえすと、金田一耕助はにこにこしながら、

「いえ、なに、あなたはいま、あの佝僂の瘤こぶのことを考えていらっしゃったのでしょ

う。そして、誰があの瘤をつけて、昨夜、佝僂に化けていたのか、それを思い悩んでいた

のでしょう。いやいや、別に感服することはありませんよ。それくらいのこと、顔色をみ

ればすぐわかる。それにあなたは考えこむと、無意識のうちに、ひとりごとをいうくせが

ありますね。あっはっは」

 金田一耕助はわだかまりのない声をあげて笑った。私はいくらか赧あかくなって、

「えっ、それじゃ、私、何かしゃべりましたか」

「あっはっは、何も別に、御心配なさるようなことはありませんがね。ときに昨夜のあの

佝僂ですが、あれが誰だったか、あなたにはほんとにわからないんですか」

「わかりません。もっとも、あれが蜂屋小市だとしたら話は別ですがね」

「蜂屋小市……?」

 金田一耕助は鼻のさきでせせら笑って、

「あなたはまじめに、そんなことを考えているんじゃないでしょうね。蜂屋小市なんてあ

りゃ、かかしも同様の存在じゃありませんか」

「ええ、そういえば私もそんな気がしているんですが、しかし、それだとすれば、昨夜の

佝僂は誰だったのか、この事件の関係者で、あの時刻に、あの巌がん頭とうにすがたを現

わしえた人間は、ひとりもないように思うのですが……」

「ひとりもない……? ほんとうに……?」

 金田一耕助は、大きくみはった眼を、くるくる廻転させながら、私の顔をのぞきこん

だ。なんとなくいたずらっぽい眼付きで、それがこの男の魅力であった。

 私は思わず息をはずませて、

「じゃ、誰かあるというんですか。誰です、それは……」

 金田一耕助はおだやかにほほえんで、

「屋代さん、あなたは盲点にひっかかっているんですよ。なんでもないことなんです。そ

れを盲点の作用で、わざとむつかしくしてしまった。よろしい、それでは私がその盲点

を、打ちやぶってあげましょう。昨夜われわれが稲妻の一いつ閃せんで佝僂のすがたを巌

頭にみとめたころ、誰かこの事件の関係者で、あの巌頭へたどりついてた人物がある筈で

すがねえ」

「だから、誰だときいているんです。そのひとは……?」

「八千代さん」

「なに、八千代さん?」

 私は頭のてっぺんから、鋭い楔くさびをぶちこまれたような、大きなショックをかんじ

ずにはいられなかった。私はその場に釘くぎ付づけになった。肩で大きく息をしながら、

焼けつくような眼で金田一耕助をにらみすえた。

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