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第四章 もう一人の女--お藤の告白(1)
日期:2023-12-21 14:13  点击:253

お藤の告白

 足長村からかえってくると、直記はやっと訊じん問もんから解放されたらしく、離れ家

で私のかえりを待っていたが、ひどく不機嫌な顔色で、

「寅とらさん、君はいったい、どこへいってたんだい」

 嚙かみつきそうな調子だった。

 係官にだいぶしぼられたらしく、蒼あお黒ぐろい顔にギタギタ脂あぶらがういて、瞳め

が異様にうわずっている。私はなんだかその顔を、正視するに耐えなかった。

 ひょっとすると私はいままで、この男をあまり甘く見過ぎていたのではあるまいか。悪

党がりで毒舌家で、わざとひとの心をきずつけて、喜んでいるようなところはあるが、根

はいたって臆おく病びようで、小心翼々たる男──そんなふうに私はかんがえていたのだ

が、それは私の間違いではなかったか。この男こそ、世にも恐ろしい、奸かん智ちに長た

けた大悪人ではないだろうか。

「おい、寅さん、なんとかいえよ。君はいったいどこへいってたんだい」

 直記はいらいらした調子で、ふたたび私をきめつけた。

「ああ、ふむ、金田一耕助という男に誘われて、ちょっと現場を見てきたんだ」

「金田一耕助……? 寅さん、いったいあの男はどういう人間なんだい」

「私立探偵だって話だよ。自らそう名乗っていた」

「私立探偵……」

 直記は大きく眼玉をひんむいたが、急に大口ひらいてカラカラ笑い出した。いかにも

毒々しい笑いかただ。

「あの男が私立探偵……あの、もじゃもじゃ頭の、貧相などもり男が……? 寅さん、そ

りゃ冗談だろう」

「いゃ、冗談じゃない。あれで相当なもんらしいぜ。警部補なんかもね、非常に敬意をは

らっているんだ。それになかなか鋭いところもある」

「バカをいっちゃいけない。あんなやつに何ができるもんか。しかし……ああ、そうか、

ふうむ」

 直記は戸棚からウイスキーを取り出すと、ふたつのグラスになみなみついで、

「おい、寅さん、飲めよ」

「いや、ぼくはいらん、飲みたくない」

「どうしたんだ。いやに考えこみやがったな。よし、いやならよせ」

 直記はひとりで、ぐいぐいウイスキーを呷あおりながら、

「しかし、そうするとおやじがあいつを呼んだ理由もわかるな、おやじはどこからききこ

んだのか知らんが、するとあれでも相当の腕うで利ききかな。人は見かけによらぬものと

いうこともあるからなあ」

 直記はそこでまた、毒々しい笑い声をあげると、

「ところで、寅さん、現場でなにか新しい発見でもあったのかい」

「ふむ、妙なものが見付かったんだよ」

「妙なものって?」

 そこで私は佝僂の瘤こぶと、コムパクトのことを語ってきかせた。話しながら私は、直

記の顔から眼をはなさなかった。

「佝僂の瘤とコムパクト……?」

 直記はしぼり出すような声で叫ぶと、恐ろしい眼をして私をにらみつけた。いまにも、

とび出しそうな眼つきだった。

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