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第四章 もう一人の女--お藤の告白(3)
日期:2023-12-21 14:14  点击:289

「そうでした。十二時ちょっとすぎでした。あのとき、若旦那から、お藤なにをしている

と叱しかられて、わたし、とっさに噓をついたんです」

「噓を……?」

「はい、わたしあのとき、蜂屋さまから電話がかかって、おひやを持ってきたようにいい

ましたが、あれは噓でした。実は……」

 と、お藤は頸くび筋すじまで真まっ赧かにそめて、うじうじと袂をいじりながら、

「まえからのお約束で、そっと忍んでいったんです。十二時になったら、やって来いと

の、蜂屋様のお言葉でしたから……」

 私と直記は、ギョッとしたように眼を見交わした。直記は俄にわかにからだを乗り出す

と、

「お藤、それじゃおまえ、蜂屋と……なにかあったのかい」

「はい……」

 お藤は消えいりそうな声で、

「はじめは無理矢理だったんです。きっとお嬢さまが、思うとおりにならなかったので、

その腹癒せに、わたくしを弄なぶりものにしようとしたのでしょう。でも……」

「でも……?」

 と、直記はわざとらしく訊きき返すと、毒々しく鼻のさきでせせら笑って、

「はじめは無理矢理に手て籠ごめにされたが、いったん味をおぼえると、おまえのほうが

夢中になったというわけか。ちっ、女というやつぁ、どいつもこいつも、さかりのついた

猫みたいな動物だな」

 お藤はさすがにムッとしたらしく、白い眼をして直記をにらんでいたが、やがて沈んだ

声で、

「それはもう、なんとおっしゃられても仕方がありませんわ。でも、わたしにとっては蜂

屋様は、いとしいひとでした。それであの晩も、お部屋へしのんでいって、ドアをあけて

入ろうとするところを、あなたがたに見とがめられたんです」

 私ははじめて、お藤の言葉に興味を催した。

「お藤さん」

 と、からだを乗り出して、

「それじゃ、君はあのとき、蜂屋の部屋から出てきたところじゃなかったのかい」

「はい、それだからお許し下さいと申し上げているんですわ。あのとき、わたし、ドアを

あけた瞬間でした。そこへあなたがたの足音がきこえたので、とっさにうしろ手にドアを

持って、いま出てきたところだというようなふうをしたんです」

「それじゃ、蜂屋がうとうとしていたから枕まくら元もとに水をおいてきたといったの

……」

「噓でした。わたし、ドアをあけたばかりで、ろくろく、なかを見るひまもありませんで

したから、あのとき、蜂屋様がお部屋にいらっしゃったかいらっしゃらなかったか、それ

すらまるで存じません」

「でも、翌朝、蜂屋の部屋をしらべたとき枕元に水瓶とコップがあったじゃないか」

「はい、あれは、翌朝、噓がばれてはならぬと思って、こっそり持っていっておいたんで

す。それですから、十二時ごろわたしが蜂屋様のお部屋へしのんでいったとき、あのかた

が、お部屋にいたかどうかわかりません。それだのにあなたさまに、つい噓をいったもの

ですから、あとでお巡りさんのお取り調べがあったときも、蜂屋様は十二時ごろには、た

しかにまだ生きていた。お部屋ですやすやおやすみでしたと申し上げてしまいました。し

かし、それもみんな噓でございます」

 私はまた直記と顔を見合わせた。

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