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第四章 もう一人の女--お藤の告白(4)
日期:2023-12-21 14:15  点击:293

「お藤さん」

 私はからだを乗り出して、

「それにしても、君はまた、なんだっていまになって、そんなことをわれわれに告白する

気になったんだい」

「はい、それは……向こうにいらっしゃるかたが、あなたがたにも正直に白状してこいと

おっしゃって……」

「向こうにいらっしゃるかたって?」

「金田一さまとおっしゃるかた。あのひとは怖こわい人です。ちゃんとわたしの噓を見

破っていて、とうとう白状させたのです」

 直記と私はまた、意味ふかい眼と眼を見交わした。何かしら無気味なおもいが、ぐうん

と下っ腹を圧迫するかんじである。

 お藤はそこで、急に顔をあげると、何かしら、ギラギラと脂あぶらのういたような眼

で、私たちを見くらべながら、

「なお、ついでにもうひとつ白状します。小金井のお屋敷の、離れ家で見付かった首無し

死体……あれは、たしかに蜂屋様でした。ええ、もう、それは間違いございません。たと

え、わずかのあいだでも、可愛がっていただいたかたですもの。首がなくともよくわかり

ます。蜂屋様はわたしを抱いてくださるとき、いつも、なにひとつかくすところなく真っ

裸になって……」

 さすがにそのあとは口くち籠ごもったが、それでもまた、きっと眉まゆをあげると、

「それですから、蜂屋様のからだなら、すみからすみまで存じていました。どんな小さな

特徴でも、宙そらでおぼえておりました。だから、間違いはございません。離れ家の死体

はたしかに蜂屋様でした」

「しかし……、しかし……」

 直記が喘あえぐように叫んだ。何んともいえぬ恐ろしい想おもいに、直記の額にはびっ

しょりと汗がふき出していた。

「首は……首は……守衛さんの首だったじゃないか」

「そうでした。それですから、殺されたのはおひとりではないのです。蜂屋さんも守衛さ

んも、お二人とも殺されたんです」

 ああ、なんということだ。それではあの首と胴とは、同じ人間ではなかったのか。それ

にしても、なんという恐ろしいことだろう。蜂屋は胴だけ発見され、守衛さんは首だけが

発見されている。そして、ふたりの人間の胴と首をよせ集めて、いままでわれわれは、ひ

とりの人間を作りあげていたのだ。いったい、蜂屋の首と、守衛さんの胴はどこへいった

のか。

 直記も私も、しばらくは、口を利きくことすらできなかった。はじめから凄せい惨さん

極まるこの事件は、ここにいたって、言語に絶する凄惨な色彩をおびてきたのである。

 私はしばらく、真っ暗な夢魔のなかを喘ぎ喘ぎ泳いでいたが、やがて、やっと気を取り

なおして、

「お藤さん、それじゃ、蜂屋の佝僂は本物だったのだね」

「むろん、本物でした。わたしはあの瘤こぶがいとしくてよく撫なでたり、頰ほおずりし

たものです。感極まったときには、夢中でその瘤に武者ぶりついたものでした。蜂屋様も

それをおよろこびになって……いままでいろんな女と関係したが、この瘤を見せたのはお

まえだけだとおっしゃって。……」

 お藤は顔をあからめずに、キッパリとこう断言したのである。

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