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第四章 もう一人の女--恐るべき錯誤(3)
日期:2023-12-21 14:17  点击:256

 金田一耕助は私たちのすがたを見ると、例によってにこにこと、人懐っこい微笑をうか

べながら、

「や、どうも、お呼び立てしてすみません。皆さん、お揃そろいになっているものですか

ら、あまりお待たせするのもお気の毒と思って、おせかせしたような次第でして……あ

あ、お藤さん、君もここにいて下さい」

 なるほど、そこには直記の親おや爺じの鉄之進もいる。お柳さまもいる。四よ方も太た

もいる。それから守もり衛えの乳母のお喜多婆アもいる。私たちふたりとお藤を加えて、

だいたいこれで事件の関係者はそろったわけだ。

 金田一耕助はにこにこと一座を見み廻まわしながら、

「こうして、皆さんにお集まりを願ったのはほかでもありません。お藤さんの新らしい供

述を基礎として、もう一度この事件を最初から、検討しなおしてみようと思うのですが、

そのまえに御紹介しておきましょう。こちらにいられるのは磯川警部、県の警察本部から

来られたのですが、私とは旧いお馴な染じみで……警部さん、こちらにいられるのが直記

さん、仙石氏の御令息です。それからこちらは屋代寅とら太たさん、直記さんの御親友

で、探偵小説をお書きになるのを、御職業としていられるかたです」

 直記と私はあわてて頭をさげると、それからまた顔を見合わせた。磯川警部もかるく頭

をさげると、探るようにちらと私たちの顔を見たが、すぐその視線をそらせると、そっぽ

を向いてしまった。なんとなく気になる態度だった。

 こうして、警部と私たちの初対面の挨あい拶さつがおわると、金田一耕助はにこにこと

一同の顔を見廻しながら、

「さて、この会合の司会者ですが、これは当然、警部さんがつとめるべきところ、自分は

まだ顔を出したばかりで、事情がよくわからぬと御ご謙けん遜そんなさるので、僭せん越

えつながら、私がつとめさせていただきます。ところで、皆さんは、昨日のお藤さんの告

白を、お聞きになっていられるでしょうね」

 私たちがくらい顔をして頷うなずいたときだった。突然、横合いからキイキイ声をはり

あげたものがあった。お喜多婆アであった。

「わたしはまえからいっていたのじゃ。あの佝僂の絵描きは、単なるコケおどしのデクの

棒に過ぎんと。……やっぱり、そうであったろうがな。あの絵描きは、とうの昔に殺され

ていたのじゃ、だから、あいつが守衛さんを殺したという法はない。守衛さんを殺したの

は、おまえさんと……」

 と、お喜多婆アは鉄之進を指さし、

「おまえさんと……」

 と、つぎにお柳さまを指し、

「おまえさんの三人じゃ……」

 と、最後にきっと、節くれ立った指で、直記の顔を真正面から指さした。

 お喜多が三人を譴けん責せきし、告発したのはこれで三度目である。そして、そのたび

に私は何かしら、この狂気じみた老婆の言葉のなかにこそ、真実があるように思われてな

らなかったのだが、今日はその感がいっそう深かった。私は背を流れる冷汗を、じっとり

と気味悪く感じずにはいられなかった。

 一座は一瞬、シーンと石のようにしずまりかえったが、やがで金田一耕助が、ぎこちな

く、咽の喉どにからまる痰たんを切るような音をさせると、

「いや、お婆アさん、ちょ、ちょっと待って下さい。そう一足とびに飛躍しちゃいけな

い。誰が犯人にしろ、われわれはまず順序を踏む必要がありますからね。しかし、いまお

婆アさんのいわれた言葉のなかに、たしかにひとつの真実があります。即ち、蜂屋小市は

守衛さんよりまえに殺されていた。したがって、守衛さんを殺したのは、蜂屋ではない。

と、すると誰が……」

「蜂屋が守衛さんよりまえに、殺されたという証拠はどこにあるんです」

 そのとき、私の横から、そう口を出したのは直記であった。直記の口調には、どこか挑

戦するような毒々しさがあった。

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