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第四章 もう一人の女--血の凍る予想(1)
日期:2023-12-21 14:18  点击:225

血の凍る予想

 直記はものすさまじい眼で私をにらむと、

「屋代が……屋代が……どうしてそんなことを……」

 と、いまにも私のうえに躍りかからんばかりの勢いだった、さすがの私も、全身にさっ

と恐怖を感じて、少しあとへ座をずらせた。

 金田一耕助は、私たちをとりなすように、

「いやいや、屋代さんを責めるのは当たりませんよ。このひとは、探偵小説家の綿密な頭

脳で、真相の一半を洞察されたのです。屋代さんが、八千代さんに疑惑をいだかれたの

は、一昨夜の事件以来だそうですがね。つまり一昨夜、竜王の滝で発見された、首無し死

体の正体について、屋代さんはまず疑惑を感じられた。つまり、あの死体は八千代さんで

はなくて、ほかの婦人ではなかろうか。八千代さんはあたかも、自分が殺されたがごとく

装うて、どこかへ身をかくしたのではあるまいか。……これが屋代さんの推理の第一歩

だったのです」

 金田一耕助のこの一言は、またしても、一座に大きなショックをあたえた。さすがの直

記も、仰天したのか、すぐには言葉も出なかった。一同はしばらく茫ぼう然ぜん自失した

顔色で、金田一耕助と、私の顔を見くらべるばかりだったが、この時、一番はやく虚脱状

態から恢かい復ふくしたのはお柳さまだった。

 日ひ頃ごろとりすましたお柳さまだが、このときばかりは取り乱して、

「それじゃ、あの首無し死体は八千代じゃないというのですか。しかし、それならなぜ、

あの死体は、八千代の寝間着を着ていたのです」

 鋭い詰問するような調子である。金田一耕助も、さすがにもう微笑はうかべていなかっ

た。しかし、言葉つきはあいかわらずおだやかに、

「それはさっきもいったとおり、八千代さんは、自分が殺されたものと、世間のひとびと

に思いこませたかったからです」

「しかし、なんだって八千代は……?」

「それはもういうまでもありません。八千代さんは、蜂屋殺しや守もり衛えさん殺しの共

犯者だった。いずれは、警察の手にとらえられて、処断されなければならぬでしょう。そ

れからのがれるためには、死んだものになるよりほか、手はなかったのです」

「それじゃ……それじゃ、……あの首無し死体の本人を殺したのも、八千代だというの

か」

 鉄之進がそのときはじめて口を出した。お柳さまとちがって、このほうはひどく気力の

ない声だった。

 金田一耕助は暗い顔をしてうなずくと、

「そうです。いや、自ら手をくだしたかどうかはわかりませんが、手伝ったことはたしか

でしょう」

 氷のような戦せん慄りつが一座のひとびとをゆり動かし、無気味な恐怖が部屋のなかに

みなぎりわたった。

「しかし、しかし……」

 お柳さまはきりりと柳りゆう眉びを逆立て、この恐ろしい戦慄の呪じゆ縛ばくからまぬ

がれようとするかのように、必死となってヒステリックな声をふりしぼった。

「それじゃ、あの首無し死体はいったい誰なんです。どこの何という女なんです」

「あれはね、隣村の海勝院という尼あま寺でらへ、ちかごろ預けられていた女で、名前は

お静、苗字はなんというか存じません」

 お静という名が、金田一耕助の口から出たとき、直記は雷にうたれたようにからだをふ

るわせた。

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