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第三章 華麗なる殺人 三(3)
日期:2023-12-22 16:02  点击:227

「ところで、金田一先生がその男の姿をごらんになってから、馬車がこの名琅荘へ到着す

るまでにどのくらいかかりましたか」

「さあ、五分くらいはかかったんじゃないでしょうかね。その人物を見たところから、こ

の家の正面玄関へ着くまでには、この広大なお屋敷の塀に沿って、角をひとつ迂う回かい

しますからね」

「金田一先生、馬車は先生を正面玄関の前でおろすと、すぐここへ引き返したようでした

か」

「ええ……と、ちょっと待ってください。馬車が正面玄関へ着いたとき、わたしは時計を

見たんです。駅から何分かかったかと思ったもんですからね。ちょうど三時でした」

「と、すると、先生が古館氏らしき人物をごらんになったのは、三時五分くらいまえとい

うことになりますね」

「そういうことになります。ところが馬車ですが、すぐにそこから引き返さなかった。

と、いうのは……」

 金田一耕助は速水譲治との関係をかんたんに話して、

「つまり、そういうわけでまえから識しり合ってた仲ですから、心安立てというんです

か。譲治君は馬車を正面玄関のまえにおいたまま、ぼくの荷物……と、いってもボスト

ン・バッグひとつですが、それをもって座敷まではいってきたんです。そこでふたこと三

こと話して立ち去ったんですが、そういうことで、五分くらいかかったんじゃないでしょ

うか。正面玄関からこの倉庫までどれくらいかかるか、それはぼくにはわかりません」

「なあに、そりゃあとで験ためしてみりゃわかりまさあ」

 と、井川老刑事はメモを見ながら、

「そうするてえと、馬車が正面玄関からこの倉庫へ、引きかえすまでの時間を五分と見

て、しめて十五分、こうなると犯行の時刻が大いに限定されてきますな。十五分あれば人

間ひとり殺すにゃじゅうぶんだ」

「しかし、そりゃ金田一先生がごらんになった片腕男が、古館氏であったと仮定してだ

ね」

「それにきまってるじゃありませんか。片腕男がそうあちらにもいる、こちらにもいると

いうわけのもんじゃないでしょう。それにこの倉庫の外はすぐに裏口になってるんです。

その裏口から右手へかけては蜜柑山になってますが、丘の麓から左手へかけては、さっき

金田一先生が通って来られた径まで、いちめんの雑木林でさあ。それにしてもやっこさ

ん、片腕男のまねをして、いったいなにをやらかそうとしていたのかな」

 問題はそこにあった。古館辰人は片腕男に扮装して、いったいなにをやっていたのか、

いや、なにをやらかそうとしていたのか。

「ところがねえ、刑事さん」

 金田一耕助は悩ましげな眼で、天井の滑車からぶら下がっている、ロープのさきの輪を

見ながら、

「あなたいま、片腕男がそうあちらにもいる、こちらにもいるというわけのもんじゃない

とおっしゃいましたが、ここにもうひとり片腕男が、いまこの名琅荘のどこかに潜んでる

んじゃないかって疑いがあるんですよ」

 と、金田一耕助が金曜日の夕方やってきて、そのまま消えてしまった真野信也と名乗

る、片腕男の話を語ってきかせると、若い警部補と老刑事は、それこそ足下から爆弾でも

破裂したように驚いた。

「金田一先生」

 と、若い警部補は、まなじりも裂けんばかりに眼を見張って、

「それじゃ、いよいよ、尾形静馬が帰ってきたとおっしゃるんですか」

「いや、それが尾形静馬であったかどうかは疑問としても、とにかく、片腕……あるいは

片腕をよそおうた男が、一昨日の夕方ここへやってきて、そのまま、抜け穴を通って消え

てしまったことはたしかなようです」

「先生はその抜け穴を調べてごらんになりましたか」

「いや、まだ…‥そんな話をしているところへ、陽子さん……現在の名琅荘の主人のお嬢

さんですね。そのひとが人殺しだって駆けこんできたもんですから、そのままになってし

まったんです。主任さん、訊きき取りがおわったら、あとでその抜け穴を見せてもらおう

じゃありませんか」

「先生はここのご主人とどういう関係ですか」

 と、井川老刑事もさぐるような眼つきになる。

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