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第九章 現場不在証明 一(1)
日期:2023-12-26 15:56  点击:313

第九章 現場不在証明

    一

 その夜、金田一耕助が寝床についたのは一時半を過ぎていた。

 抜け穴の冒険をおわって洋館のロビーへかえってくると、お糸さんが寝ずに待ってい

た。惨さん憺たんたる井川老刑事のようすを見ると、お糸さんはびっくりして眼をまるく

した。

「まあ! 抜け穴の中になにか変わったことでもございましたか」

 お糸さんの驚きようには、少し仰山過ぎるところがあるように思われたが、さすがの古

ふる狸だぬきの老刑事も、気がつかなかったか、

「なあに、滑って転んで穴ぼこへ落ちただけのことさ。それよりばあさん、あんたにひと

つ頼みたいことがあるんだ」

 裾すそ野のの秋もなかばをすぎ、しかも深夜の十二時過ぎともなれば肌寒さが身にしみ

る。おまけに漏水のはげしい抜け穴をくぐってきた一同にとっては、なによりも温かい風

呂と気楽なベッドが望ましかったが、いっぽう鉄は熱いうちに打てという言葉もある。そ

こで井川刑事の要請で男子だけがひとりずつ、正面玄関の横にあるフロントへ呼び出され

たが、金田一耕助の予言したとおり、はたしてだれにもアリバイはなかった。

 まずイの一番に呼び出されたのは篠崎慎吾だが、十一時二十分から十二時まで、すなわ

ち一同が抜け穴の中にいるあいだ、寝室の中に閉じこもっていたというのだが、それには

だれも証人はいなかった。きのうああいうことがあったので、妻と寝室をわかっていると

いうのである。

「しかし、篠崎さん」

 と、田原警部補が急に疑いぶかい眼つきになり、

「われわれは十一時二十分ごろ、あなたの居間の暖炉の裏っ側をとおって、地下のトンネ

ルへ降りていったんですよ。そのときあなたの居間にはだれもいなかったような気がする

んですが……」

「ああ、それならばわたしは日本間のほうへいっていたんでしょう。家内が受けたショッ

クが大きかったということは、あなたがたにも想像がおできになるでしょう。当分日本間

でひとりで寝たいといい出したんです。わたしもそれに同意しました。お糸さんはあなた

がたのほうに用事があったので、タマ子がめんどうみてくれました。倭文子も芯しんは強

いほうですが、やっぱり神経質なところがあります。ことに今夜のような晩にはねえ。そ

んなときの用意に主治医先生が、睡眠薬をあれにあてがってあるんですね。それをのむか

ら眠りにつくまでここにいてほしいというので、わたしはそのとおりにしてやりました。

枕ちん頭とうに座ってあれの眠りにつくのを待っていてやったんです。なかなか眠れぬよ

うでしたが、それでもやっと眠りに落ちたのらしいで、腕時計を見ると……」

「何時でした」

「十一時二十分でした」

 慎吾はニコリともせず答えたが、それを聞くと田原警部補と井川老刑事の顔に急に猜さ

い疑ぎの色が濃くなった。

「へへえ、するとわれわれがダリヤの間から、抜け穴へ潜り込んだとおなじ時刻になるん

ですかい」

 井川刑事が疑わしそうに鼻を鳴らしたが、慎吾は表情もかえずに、

「そういうことになるようだね」

「そんなバカな! それじゃ平ひよう仄そくが合いすぎるよ。そりゃでたらめにきまって

る」

「まあ、まあ、井川君、待ちたまえ」

 田原警部補は温厚な性格なのである。縁なし眼鏡の奥から、探るような眼で慎吾を見な

がら、

「篠崎さん、それについてだれか証人がありますか」

「まあ、ないでしょうな。家内が薬をのんだのが十時五十分、これはあれも憶おぼえてる

でしょうが、眠りに落ちるまで何分かかったか……そこまではあれも憶えておらんでしょ

う。……しかし……」

 慎吾がふいと眉まゆをひそめるのを見て、

「しかし……? 篠崎さん、どうかなさいましたか」

「いえね、金田一先生、倭文子が眠りにつくの待って、わたしがお入側まで出てくると、

そこにタマ子が待っていたんです。ひょっとするとあの子が……」

 と、いいかけて慎吾は物憂そうに首を左右にふった。これは五分か十分の問題なのであ

る。それをタマ子が正確に証言しうるかどうか、おぼつかないとあきらめたのであろう。

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