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第九章 現場不在証明 二(1)
日期:2023-12-26 15:59  点击:301

 金田一耕助はとつぜん廊下の途中で立ちどまった。

 女中のお杉さんの案内で迷路のような長いながい廊下を通って、自分に当てがわれた日

本座敷へ帰ってきて、

「昼間のお湯があのまま立ててございますから、ひと風呂お浴びになったら……」

 と、いうお杉さんの挨拶をきいたとき、金田一耕助は心の底から感謝せずにはいられな

かった。あの崩壊一歩てまえの地底の闇を彷徨してきたあとでは、温かい風呂はなにより

のご馳走といわずばなるまい。

 お杉さんが立ち去ったあと、金田一耕助はタオルと石鹼函をわしづかみにして、浴室の

ほうへ出向いていったが、そこでドキッと立ち止まったのである。

 浴室にあかあかと電気がついているのは当然として、だれかが湯をつかう音がしてい

る。時刻はまさに深夜の一時。いまこの建物のこの翼には、自分以外に客はいないはずで

ある。だれだろう。いや、それがだれであるにしろ、そいつは湯を使うのに少しもあたり

をはばかるふぜいがない。

 金田一耕助がガラス戸をひらくと、広い脱衣場のザルのなかに、白と黒とのあらい

チェックのセーターにズボン、下着類などが乱雑に脱ぎすててある。若い男らしい。

「だれ……? そこにいるのは……?」

「金田一先生、ぼくですよ、譲治ですよ」

「ああ、君か……」

 金田一耕助は思わず眼をすぼめた。そうだ、この男が残っていた。この男だってさっき

地下道にいた片腕の男でないという保証はどこにもない。

 金田一耕助も裸になって浴場の曇りガラスの戸をひらくと、譲治が首まで浴槽につかっ

て、にやにやと悪戯いたずらっぽく笑っている。

「君はいつでもこの浴場を使うのかい」

「ご冗談でしょう。いつもはここの湯わいてやあしませんよ。今夜は先生への特別サービ

ス」

「それを君がお先に失敬とやってきたのかい」

 金田一耕助はまぶしそうに相手の視線をよけながら、譲治とはなるべく離れたところへ

身を浸した。並ぶといまさらのように、貧弱な自分の肉体に気がひけるのである。

「と、まあ、そういうわけですね。だけどこのこと、御隠居さんにゃ内緒にしてくださ

い。わかるとお目玉ですからな」

「じゃなぜやってきたんだい。君たちの風呂場はべつにあるんだろ」

「そりゃあります。だけど今夜は先生に、ちょっと様子を聞きたかったんでね」

「様子って、なんの様子だい?」

「白ばっくれてもいけませんよ。抜け穴の中でなにかあったんでしょ」

「譲治君にゃどうしてそれがわかるんだい」

 緩い半円型をえがいている大理石の浴槽の中で、二間ほどへだててふたりは相対してい

るのだが、湯が綺麗なので、浴槽のふちに身をもたらせて、長々と脚をのばしている相手

の体が、手にとるように透けてみえる。さすがに股こ間かんには手拭いをおいているが、

五尺六寸の体はよく均整がとれていて、腕の筋肉なども隆々としている。あちらさんの血

をひいているわりには毛深くなく、ほんのりと上気した白いつややかな肌はまぶしいくら

い青春そのものだ。

 金田一耕助の凝視にこたえて、譲治は湯のなかで屈伸運動をしてみながら、

「先生、天二物を与えずとはこのことですね」

「なんのこったい、それは……?」

「いえね。神様は先生のここ……」

 と、おツムを指さしながら、

「を作るのに入念だったが、体のほうは手を抜いたんでしょうね。お気の毒みたい」

「なにを。バカにするな。これでも歴戦の勇士だぞ」

「そうそう、先生、その体で兵隊にとられたんですってね」

「そうさ、男子とあるからは生きとし生けるもの、これすべて戦場だ。君たちがおふくろ

さんのおっぱいに、武者ぶりついているあいだにな」

「そうそう、女は女で敵さんが上陸してきたら、こころよく強ごう姦かんさせて、睾きん

丸たまをにぎって殺してしまえって教育されたそうですぜ。あっはっは」

 はじけるような笑い声をきいて、金田一耕助はおもわず相手の顔を見なおした。

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