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第九章 現場不在証明 二(2)
日期:2023-12-26 16:00  点击:278

「おい、さっきの返事はどうしたんだい?」

「さっきの返事とおっしゃると……?」

「とぼけるな、こんや抜け穴の中でなにかあったってこと、どうして君はしってるんだ

い」

「そりゃわかりまさあ。先生がた抜け穴を抜け出すと、社長をはじめひとりずつ呼び出し

て、なにか調べていたじゃありませんか。先生、抜け穴の中にだれかいたんですか」

「そうそう、譲治君、われわれが抜け穴の中にいるあいだ、君はいったいどこにいたん

だ。十一時二十分から十二時までだ」

「先生、それじゃやっぱり抜け穴の中にだれかいたんですね」

「いいからぼくの質問にこたえたまえ。十一時二十分から十二時まで、君はどこでなにを

していたんだ」

「自分の部屋にいましたよ」

「だれかといっしょかい?」

「いいえ、ぼくひとりでしたよ。まもなくあと三人ボーイがやってくるんですが、いまの

ところぼくひとりですからね」

「だれか証人があるかい。君が部屋にいたってことについて……」

「いやだなあ、それじゃぼく疑われてるんですかい。しまったッ、それじゃタマッペでも

引っ張りこんでいちゃついてりゃよかった」

「そうそう、そのタマ子君といっしょじゃなかったのかい」

「いいえ、タマ子とはきょう……いや、きのうの夕方現場を出て、すぐ別れてそれっきり

でさあ」

「そのタマ子君、いまどこにいるか知らないかい」

「知りませんねえ。タマッペがどうしたというんです。まさかあいつが怪しいなんていう

んじゃないでしょうねえ」

「冗談はよせ。それじゃ十一時二十分から十二時まで、君が自分の部屋にいたという証人

はだれもいないわけだな」

「アリバイ調べですか。ええ、なさそうですね。金田一先生、そうするとやっぱり抜け穴

の中にだれかいたんですね。しかし、先生がたはそいつを逃がしちまったんで、それがだ

れだかわからなかった。そこで、アリバイ調べというわけですか」

 金田一耕助はちょっと妙な気がした。

 自分が子供のころにはアリバイなんて言葉はしらなかった。そういえば少年時代読んだ

翻訳探偵小説では、現場不在証明とかいてアリバイと振り仮名がふってあった。いまでは

こういう小僧っ子でも、アリバイという言葉をしっている。探偵小説の影響もまた甚大で

あるというべきである。

 金田一耕助はわざと疑わしそうな眼をショボショボさせて、

「おい、譲治君、君は黒い鳥打ち帽に大きな黒眼鏡、感冒よけの黒いマスクに黒手袋、そ

れから黒いトックリ・セーター、そういうものを持っているかい」

「黒い鳥打ち帽に大きな黒眼鏡、感冒よけの黒いマスクに黒い手袋、黒いトックリ・セー

ター? 金田一先生、そ、それじゃ抜け穴の中にいたのは、金曜日の夕方ここへやってき

て、ダリヤの間から消えた片腕の男だというんですか。そいじゃあいつはまだ、この屋敷

のどこかに隠れているというんですね」

「そんなことはどうでもいい。それよりぼくの質問に答えたまえ。黒い鳥打ち帽に大きな

黒眼鏡、感冒よけの黒いマスクに黒手袋、黒いトックリ・セーター、そういうものを君は

持っているかと聞いているんだ」

「冗談じゃありませんよ。ぼくがそんなもん、持ってるわけがないじゃありませんか」

「じゃ、だれが持ってるんだ」

「そんなことぼくの知ったこってすか」

「ねえ、譲治君、ひょっとすると篠崎さんがそんなもの、持っているのを見かけやしな

かったかい」

「うちの大将が……?」

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