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第九章 現場不在証明 二(3)
日期:2023-12-26 16:01  点击:253

 湯の音を大きく立てて混血児の譲治は、浴槽のなかでいずまいをなおすと、顎あごを突

き出すようにして、金田一耕助の顔をのぞき込み、

「じゃ、金田一先生は片腕の男を、うちの大将だと思ってらっしゃるんですか」

「かもしれないじゃないか。金曜日の夕方の篠崎さんのアリバイは不正確だし、犯行の

あったきょう……いや、もうきのうになるが、きのうの午後三時前後のアリバイもない。

それに凶器として使われた仕込み杖も篠崎さんの持ち物だ。動機の点がハッキリしない

が、それだっていろいろあるだろうからね。ああいういきさつの夫婦だから……」

「だって、だって……」

 と、譲治はあえぐように、

「今夜……いや、ゆうべのアリバイはあるんでしょう。十一時二十分から十二時まで

の……」

「ところが、譲治君、それがないんだ」

「だって、おやじさん奥さんといっしょじゃなかったんですか」

「いっしょじゃなかった。ああいうことがあったあとだからね。寝室を別にしようという

わけだ。仏さんに遠慮したんだろうな。篠崎さん、自分の部屋に閉じこもっていたという

が、それにはだれひとり証人がないんだ」

「金田一先生」

 譲治はすっくと浴槽のなかで立ちあがった。さすがに手拭いを腰にまいているが、全身

は怒りにふるえている。うえから金田一耕助をにらみすえながら、

「先生はおやじさんの敵か味方か」

「ぼく……? そうだな。ぼくはいうならば正義の味方、いや、つねに真理の味方という

ところかな」

「なにをこの気き障ざ野郎! てめえが風間先生の友人でなかったら、ここで絞め殺して

やるんだ。てめえをひねりつぶしてやる!」

 一歩まえへ踏み出して、金田一耕助のうえにのしかかるようにしながら、突き出した譲

治の両手は、しんじつ金田一耕助の細っ首をねじ切りそうにモガモガしている。この凄ま

じい形ぎよう相そうをみて、恐怖をかんじなかったといえば噓になる。しかし、それ以上

に金田一耕助は、もと浮浪児のこの混血児に深い興味をおぼえずにはいられなかった。

 金田一耕助はわざと相手を挑発するようにせせら笑って、

「なるほど、君がそんなに興奮するところをみると、やはり犯人は篠崎さんなんだな。君

はそれを知っているから……」

「噓つけ! 噓つけ! この恩知らずめ! 風間先生のところにお世話になりながら、先

生の親友のことをよくもそんなことがいえたもんだ。ああ、わかった、てめえそんな細っ

こい体で、さんざん戦争で痛めつけられたもんだから、職業軍人を憎んでるんだろ。それ

でうちのおやじさんを犯人に仕立てたがってんだろ」

 金田一耕助は吹き出した。

「なるほど。近ごろそういう考えかたがはやってるんだね。くたばれ、職業軍人ってやつ

が……あっはっは!」

 湯から首だけ出して笑っている、金田一耕助の人懐っこい表情に、譲治は気勢をそがれ

たのか、だらりと両腕をさげると、

「犯人はおやじさんじゃねえ。よしんばおやじさんがかっとして、あんなことをやったと

しても、おやじさんならあんな小刀細工はやらねえよ。おやじさんなら……おやじさんな

ら……」

「どうするだろうね」

「いさぎよく自首して出らあな」

「なるほどねえ。しかし、譲治君、篠崎さんはあのひとに対して、なにかかっとならな

きゃならぬ理由でもあるのかね」

 譲治はギョッとしたように、うえから金田一耕助をにらみすえていたが、急にベソをか

くような顔になり、

「知るもんか、知るもんか。おれはなにも知らねえ。おやじはバカだ。おやじはバカ

だ!」

 譲治はそこまでいうと浴槽からとび出し、曇りガラスの戸を音を立てて開閉すると、身

支度もそこそこに脱衣場から出ていった。金田一耕助は遠ざかりいく、その足音に耳をす

ましながら、浴槽のなかで身じろぎもしないで考えている。

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