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第十章 浴槽の貴族 一(1)
日期:2023-12-26 16:02  点击:238

第十章 浴槽の貴族

    一

 終戦後五年たった現在でも、汽車の混雑は相当のものである。

 金田一耕助と小山刑事は、午前九時十五分富士駅発の鈍行にやっと乗り込んだものの、

座席を見つけることはとうてい不可能だった。終戦直後ほどではないにしても、いまでも

買い出し部隊は相当横行しているらしい。関西方面から引き揚げてくる疎開者の一家もい

た。外地からの引き揚げ者もいた。それやこれやでごったがえしている車両にやっと割り

込んだものの、座席を見つけだすなどということは、とんでもないことである。

「これじゃ東京まで立ちん棒ですな」

 若い刑事が鼻のあたまに汗をかきながらグチるのを、金田一耕助はなぐさめがおに、

「仕方がありませんね。これも時節柄ですからな」

 小山刑事は署の命令で東京へ派遣されていくのである。用件はいうまでもなく、金曜日

の夕方における関係者一同のアリバイ調べと、事件の背後関係の調査が目的であった。ほ

んとうならば昭和五年以来のいきさつから、井川刑事が出張すべきなのだが、井川刑事は

井川刑事でこちらに重要な任務が残っているので、小山刑事が代行することになったのだ

が、こういうことには不慣れとみえ、この若い刑事はなんとなく不安そうである。

 被害者が被害者、関係者が関係者だけに、静岡県の警察本部が乗り出してくるのはいう

までもないとして、東京の警視庁が介入してくるであろうことも必至であった。しかし所

轄の富士署としては、昭和五年の事件のこともあり、なんとかして自分たちの手で解決し

たいという意向をもっており、田原警部補もそのつもりだし、井川老刑事の張り切りよう

たるや大変なものであった。それだけに小山刑事の責任たるや重大である。

「大丈夫ですよ。本庁でいろいろ協力してくれますし、それにぼくの差し上げた紹介状、

お持ちでしょうね」

「ええ、もちろん」

 と、小山刑事は上着のポケットをおさえた。金田一耕助の書いた紹介状とは、いうまで

もなく等々力警部へあてたものである。

「ぼくも閑があったら、警部さんに会ってみてもいいんです。とにかく東京へいったらそ

こを連絡所にしましょう」

「先生、なにぶんよろしくお願いいたします」

 こうしてごったがえす列車に、やっと割り込んだふたりなのだが、金田一耕助はいどこ

ろがきまると、すぐ窓から顔を出して、自動車で送ってくれた奥村秘書に声をかけた。

「奥村君、御苦労様、もう引き取ってくだすってけっこうですよ」

「金田一先生、ちょ、ちょっと待ってください。むこうからやってきたのは、名琅荘の

ボーイじゃありませんか」

「えっ?」

 金田一耕助と小山刑事が振り返ると、いましも駅前広場で愛馬フジノオーからとび下り

たのは、混血児の速水譲治である、ひなびたあたりの風景のなかで、臙えん脂じ色いろの

制服がもえるようである。

 譲治は列車がまだ停とまっているのを見ると、いそいで馬の手た綱づなをありあう柱に

結びつけ、改札口へ突進してきた。

「金田一先生! 金田一先生!」

 譲治は窓から顔を出している、金田一耕助のモジャモジャ頭に目をとめると、気が狂っ

たように手を振ってわめいた。

「下りてください! すぐ汽車から下りて引き返してください。おやじさんからの要請で

す。大事件発生! 大事件突発!」

 プラットフォームにいる人たちはいうにおよばず、窓という窓からのぞいた顔が、いっ

せいに譲治のほうを振り返る。それほど譲治の服装は異様であり、その態度や口調には激

しいものがあった。

 金田一耕助はいっしゅん躊躇した。だが、つぎのしゅんかん、譲治のはなった言葉がか

れの決意をうながした。

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