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第十一章 密室の鍵 一(3)
日期:2023-12-28 13:49  点击:305

「それはそうと主任さん、古館さんの死因はわかりましたか」

 金田一耕助がたずねた。

「そうそう、さっき先生がお出掛けのあと、署から連絡があったんですが、死因はやっぱ

り絞殺のほうだそうです」

「つまり、あの仕込み杖の握りのほうで後頭部をぐゎんと一撃、元伯爵先生が昏倒してる

ところを、ありあうロープでぐっとひと絞め。それでなにもかも符節が合うようですが、

それにしても犯人はよっぽど残忍なやつか、それとも古館さんに対して、よほど深い憎し

みを抱いてるやつにちがいないってことになってるんですがね」

 井川老刑事が補足するあとから、

「それにしても犯人は非常な大力のやつだろうというんです。古館さんすんでのことに、

首の骨が折れそうになってたそうですからね」

 ふたりの説明をききながら、金田一耕助は悩ましそうな眼をして、脱衣場にある脚つき

の乱れ箱の中を見ていた。その乱れ箱には天坊さんの脱ぎ捨てたパジャマやパンツ、ド

レッシング・ガウンの類が散乱しており、乱れ箱のしたにスリッパが一足脱ぎ捨ててあ

る。

「この乱れ箱さわってもかまいませんか」

「ええ、どうぞ、どうぞ。さっきわたしがかきまわしましたからな」

 乱れ箱のなかにあるのはパンツに粗い縦縞のパジャマの上下、それから柔らかい茶色の

ウール地のドレッシング・ガウンとただそれだけ。パンツ以外はいずれも見憶えのある品

だったが、金田一耕助はそのガウンを両手にとってひろげてみたとき、おやというふうに

眉をひそめた。

「金田一先生、なにか……」

 そのガウンにはボタンがなくて、共とも布ぎれで作った細い帯状のバンドで締めるよう

になっている。げんに昨夜ダリヤの間へ顔を出したとき、天坊さんは共布のバンドをまえ

で結んでいたし、そのガウンにもバンドを通すこれまた共布で作った細い紐のバンド通し

が、両脇と背筋の三か所についているのだが、肝かん腎じんのバンドがどこにも見えな

い。

 井川老刑事もはじめてそれに気がついたらしく、キョロキョロあたりを見回したが、バ

ンドはどこにも見当たらなかった。のちに寝室から居間と捜してみたが、バンドはついに

このフラットのどこからも発見されなかったのである。

 このガウンについて金田一耕助がもうひとつ眼をとめたのは、腰のあたりの両脇と左の

胸と、共布で作ったポケットが三つついているのだが、左腰についているポケットがひと

つ裏返しになっていることである。

「井川さん、これあなたがひっくり返されたんですか」

「とんでもない。わたしゃ乱れ箱の中のものの点数を調べただけですがね」

「田原さん、天坊さんがゆうべダリヤの間へやって来られたとき、このガウンを着てい

らっしゃったが、ポケットはこんなふうにひっくり返っていましたか」

「いいえ、そんなみっともない格好になっていたら、わたしも気がついたはずですがね」

「わかった。犯人のやつなにかビリケンさんのもちものを、ねらっていやアがったにちが

いねえ」

 井川老刑事は脱衣場から外へとび出した。脱衣場のそとは寝室だが、そこには慎吾たち

三人の姿はみえなくて、見張りに立った警官の話によると、階下のロビーで待っていると

のことである。

 寝室のベッドのそばにこれまた脚つきの乱れ箱があり、そこに天坊さんのパンツ以外の

下着類や靴下が、きちんとたたんでおいてあり、ベッドの頭部にある備えつけの洋服簞だ

ん笥すをひらくと、見憶えのあるスコッチの三つぞろえやワイシャツが、ネクタイととも

にハンガーにかけてぶらさがっている。洋服簞笥の床にはボストン・バッグがおいてあっ

たが、そのボストン・バッグには K.T. と天坊さんの頭文字イニシアルがおしてあり、そう

とう年代物らしい。

 ボストン・バッグをひらくと着更えのワイシャツが二枚とネクタイが三本、パジャマが

ひとそろえと化粧道具が入れてあったとおぼしい信玄袋がひとつ、靴下が二足に、タオ

ル、ハンカチ、鼻紙の類。いずれもキチンとたたんで整理してある。天坊さんはこの名琅

荘に何泊するつもりでいたのかしらぬが、そうとうお洒しや落れで、しかも綺麗好きで整

理癖があったらしい。

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