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第十一章 密室の鍵 一(4)
日期:2023-12-28 13:49  点击:282

 洋服の上着の内ポケットから、二つ折りになる模造革の紙入れが出てきたが、なかには

若干の紙幣と名刺、天坊さんは鎌倉に住んでいたらしく、鎌倉から東京までの定期券。ほ

かに電車の回数券。旧貴族の天坊さんも戦後は電車を利用していたらしい。

「ところで、井川さん、あなたこれをごらんになって、なにかお感じになることはござい

ませんか」

「金田一先生、こりゃあっしのカンですが、だれかがこれを引っかきまわしていきゃア

がったにちがいありませんぜ。ほら、洋服の上着のポケットがはんぶんひっくり返ってま

さあ」

「そうですね。天坊さんは几き帳ちよう面めんなかただったらしいが、それにしては妙で

すね」

「ボストン・バッグの中のしろものなんかも、いったん引っかきまわしたあとで、また整

理しなおしたんじゃないかって匂いがしますぜ」

 洋服簞笥の下部には引き出しが四つ付いているが、そのひとつなんかだれかがいったん

開いて締めるとき、急いだとみえいびつに入っていて、なかなか開かないのがあった。引

き出しのなかはもちろんみんなからである。

「金田一先生、そうすると犯人はたんに天坊さんの生命をねらっただけじゃなく、天坊さ

んの所持品をねらったんですか」

「そうだ、きっとそれにちがいねえ。犯人のやつビリケンさんの顔を洗面台へ押し込んで

溺死させ、湯舟へ漬けて溺おぼれ死んだように見せかけておいて、さてそのあとで獲え物

ものはなきやと持ち物一切、ひっかきまわしていきゃアがったにちがいねえ」

「しかし、おやじ、その獲物とはなんだね」

「さあてと。金田一先生、あなたにゃなにかわかってるんですかい」

「とんでもない。わたしにもさっぱりわからない。見当もつきません。しかし、ポケット

の中まで捜していったとすると、目的のものはあまり大きな品じゃなさそうですね」

「わかった!」

 井川老刑事が大きな声をあげたので、金田一耕助と田原警部補は思わずそのほうを振り

返った。老刑事は眼のふちに朱を走らせて、

「それ、あのガウンのバンドに縫い込んであったんですぜ。あの紐、幅が一寸五分くらい

あったじゃありませんか。そうとうのシロモノが縫い込めまさあ。犯人はそれに気がつい

たもんだから、バンドごと持っていきゃアがったにちがいねえ」

 金田一耕助は微笑した。若いころ読んだ外国の探偵小説に、それと似たような話があっ

たのを思い出したからである。その小説で隠されていたシロモノとはたしか宝石であった

とおぼえている。書画骨こつ董とうの才取りをして生計をたてているような、落らく魄は

く貴族の天坊さんがそんな貴重な品を持っていようとは思えなかったが、現実にバンドが

紛失している以上、むげに井川刑事の説を笑殺するわけにはいかなかった。

 そこはそのままにして三人が居間のほうへ出てきたとき、浴室から森本医師や鑑識の連

中がドヤドヤとあとを追ってきた。

「田原君、仏さんは例のところへ運んでおいてもらいましょう。夕方までにはらちをあけ

てみせるからね」

「ヤブ小路先生、よろしく頼みまっせ」

「よし来た。細工は流々というところだ」

 森本医師がセカセカと出ていったあとで、若い鑑識課員が井川老刑事に、

「おやじさん、写真を撮っとけというのはこのブロンズ像のことですか」

「そうだな、そのブロンズ像も撮っておいてもらおうか。しかし、問題はブロンズ像の脚

下に、鍵が置いてあるだろ。その鍵の位置をしっかり撮っておいてもらおうじゃないか」

 あらゆる角度からブロンズ像と鍵の撮影が行われたあとで、金田一耕助もマントルピー

スのそばへよってみた。

 マントルピースは大理石でできている。高さは金田一耕助の胸くらい、その大理石のう

えに身の丈一尺二寸くらいのブロンズ像がおいてある。ブロンズ像は裸婦で、「沐もく浴

よくする女」とでもいうのであろう、裸の女が両膝を立てて腰をおろしているところであ

る。髪をうしろに垂らし、両手で膝をかかえている。その裸婦の足のつまさきに、長さ二

寸くらいの銀色の鍵がおいてある。

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