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第十一章 密室の鍵 一(5)
日期:2023-12-28 13:50  点击:230

「刑事さん、このブロンズ像と鍵とになにか因果関係でもあるんですか」

 金田一耕助がたずねると、そばから田原警部補が引きとって、

「金田一先生、これちょっとおかしいんです」

「おかしいとおっしゃると?」

「いえね、けさお糸ばあさんがここへやってきたとき、ドアにはちゃんと鍵がかかってい

るのに、いくら呼んでも返事がない。しかも、シャワーの音がきこえている。そのうちに

ばあさんあのシャワーの音はゆうべから、あのままつづいているんじゃないかと気がつい

たんですね。そこで廊下にある花瓶台をドアのまえに持ってきて、そのうえにあがって、

あのドアのうえの回転窓を半分開いてなかをのぞいてみたところが、そこにある鍵が見え

たというんですね」

「な、な、なんですって。じゃドアには鍵がかかっていたんですって?」

「そうだそうです」

「しかも、鍵はここにあったんですね」

「そうだそうですよ。ばあさんそれでおかしいと思ったんですね。ドアに鍵がかかってい

て鍵がここにある以上、天坊さんは部屋のなかにいるはずです。にもかかわらずいくら呼

んでも返事がない。しかも、シャワーの音はゆうべからつづいているんじゃないかという

疑惑が、ふっとばあさんの脳裡をかすめたんですね。そこでばあさん急に不安になり、階

下にいる篠崎氏にそのむねを報告し、自分はフロントから合鍵をもってきて、篠崎氏とふ

たりで部屋へ入ってくると、ああいうことになっていたというんですね。そこで篠崎さん

が窓という窓をしらべたところが、掛け金は全部なかから掛かっていたというんです」

「しかも、犯人の姿はどこにも見えなかった……?」

「そうそう、金田一先生、そのときばあさんベッドの下までのぞいてみたというんです

ぜ。しかも、犯人、あるいは犯人らしき人物はどこにも見えなかったといってるんです。

先生、あんたこの謎をなんと解く」

 井川老刑事は狸のような目玉をクリクリさせて、挑戦するような調子である。見ように

よってはこの老刑事、この事件をたのしんでいるようにもみえるのである。

「しかし、この部屋にも抜け穴が……?」

「いや、ところが金田一先生、この部屋にゃ抜け穴は絶対にないとばあさんは主張するん

でさあ。もっともあのばばあのいうことだから当てにゃなりませんがね。あとでわれわれ

の手で厳重に調査してみようと思ってるんですが、もしここに抜け穴がなかったとした

ら、先生、おまはんこの謎をなんとお解きあそばす」

「なあるほど」

 古狸刑事の挑戦をうけて金田一耕助はうれしそうに、ガリガリバリバリ、モジャモジャ

頭をかきまわしながら、

「そ、そ、そうすると、こ、こ、これ、密室の殺人ということになるんですかあ」

 と、大いにどもり、かつ大いに眼を丸くした。

「そういうことになりそうなんですが、金田一先生、なにぶんよろしくお願いします」

 と、古狸刑事とは反対に田原警部補のほうは一見低姿勢だが、なあに内心では大いに闘

志をもやしているのである。

「なるほど、すると問題はこの鍵ということになりますな」

 金田一耕助はもういちどマントルピースのうえの鍵に眼をやった。

 その鍵は長さ二寸くらいのふつうの鍵で、頭のほうは輪になっており、ドアへさし込む

ほうは複雑な形態をなしている。しかし、その鍵は大理石のマントルピースのうえにじか

に置かれているのではなく、縦一尺五寸、幅一尺くらいの浅い漆うるし塗ぬりのお盆のよ

うなもののなかに置いてあり、「沐浴する女」のブロンズ像もそのお盆のなかで腰をおろ

し、両手で膝をかかえているのである。お盆の材質は柔らかいホウの木らしく、いちめん

に鎌倉彫りのような彫刻がほどこしてあり、模様は二匹の竜が珠たまをとりあっていると

ころである。

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