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第十一章 密室の鍵 一(6)
日期:2023-12-28 13:50  点击:278

「わたしゃさっきから思っていたんですが、このブロンズ像、妙なところにおいてありま

すね。いつもこうしてお盆のなかに置いてあるんですか」

「いや、お糸さんもそれをふしぎがっているんですがね。いつもは大理石のうえに直接置

いてあるんだそうです。お盆のほうは寝室のベッドのわきのサイド・テーブルのうえにお

いてあり、小物入れなんですね。時計や財布、あるいは眼鏡などを入れておく……だれが

このお盆をこんなところへ持ってきたんだろうと、お糸さんもふしぎがっていましたよ」

「なるほど」

 金田一耕助はしかつめらしい顔をして、ブロンズ像を持ち上げようとしたが、ずっしり

としたその像は形こそ小さいがずいぶん重かった。

「この鍵、合鍵は……?」

「もちろんひとつだけあります。どの部屋にも鍵は二つずつあるんですが、ひとつはお客

さんに渡し、あとの一つはお糸さんがフロントで保管しているんですね」

「金田一先生、そいつをこっそり犯人に、借用されたんだろうなどといおうものなら、あ

のばあさんにかみつかれますぜ」

 どうやら井川老刑事もかみつかれたくちらしい。

「じゃだれかがこっそり蠟ろうかなんかで型をとり、あらかじめ合鍵を作っておい

……」

「あっはっは、あちらの探偵小説にゃよくそういうのがあるようだが、そうするとそいつ

よくよく先見のめいがあるやつですぜ。この部屋へビリケンさんが泊まるということを、

あらかじめ知ってたってことになりますからね」

 井川刑事は憐れん憫びんの情禁じがたしという顔色で、金田一耕助のモジャモジャ頭を

見下ろしている。老刑事は筋金入りの体をしているが長身瘦そう軀くというやつである。

「しかし、刑事さん、それこう考えてみたらどうでしょう。そいつはこのヒヤシンスの間

のみならず、名琅荘のありとあらゆる部屋の合鍵を、こっそり作っておいたというのはど

うでしょう」

「なんのために……?」

「つまり、その、なんですな。将来殺人の発作に襲われるであろう場合に備えてですな。

あっはっは、刑事さん、そんな顔なさらなくても結構ですよ。ぼく気はたしかですから。

しかし、可能性からいえばなきにしもあらずですが、実際にはありそうにもないことです

ね。よろしい、そうするとお糸さんが保管しているフロントの鍵以外には、ぜったいに合

鍵はなかったということにしましょう。そうするとこれ密室の殺人ということに……」

 と、いいかけて金田一耕助は、ドアのうえに半開きになっている回転窓に眼をつける

と、

「いや、いや、この部屋かならずしも密室とはいえないんじゃないでしょうかね」

「金田一先生、あんたのいうのはあの回転窓のことですかい。ようがす、それじゃ賭かけ

をしようじゃありませんか。金田一先生、あんた男としちゃ小柄のほうだが、あの回転窓

から抜けられたらお慰み。わたしゃ首を賭けまさあ」

 老刑事はせせら笑ったが、このとき金田一耕助少しも騒がず、

「刑事さん、ご芳志はまことにかたじけないが、まあ、ご辞退しましょうよ。そんな首頂

戴したところで、刻んで味噌漬けにするわけにもいかない。へっへっへ」

 金田一耕助っていやな野郎なのである。

「いや、しかし、刑事さん、犯人はなにもあの回転窓から抜け出すことはありませんよ」

「じゃ、どうするてえんです」

「堂々と鍵を持ってドアからそとへ出る。そして、そとからドアに鍵をかけると、エイ

ヤッとばかりに回転窓からマントルピースめがけて鍵を投げつける。つまりあのブロンズ

の像はその標的だったというわけですな」

「へへえ、すると先生のいわゆる犯人てえのは投げ銭の名人なんですかい」

「ひょっとすると銭形平次の子孫かもしれませんね。いや、冗談はさておいてわたしのい

いたいのは、これ、必ずしも密室の殺人とはいいがたいということですな。じゃ、階し下

たへいってお糸刀と自じのお話をうかがおうじゃありませんか」

 天坊さんの腕時計は十一時四十五分のところで止まっている。それが天坊さんの最期の

時刻を示しているとすれば、関係者一同だれにもアリバイのないことは、昨夜の十二時以

降に行われたアリバイ調べでもハッキリしている。いや、ここにただひとり、正確なアリ

バイを立証しうる人物があった。ほかならぬ抜け穴の怪人である。あの怪人が何者にし

ろ、あいつだけはアリバイを立証しうる唯一の人物なのだが、さりとてわれこそは抜け穴

の中にいたあの怪人にて候と、名乗りをあげてくる人物があるかどうか、はなはだもって

おぼつかない話といわねばならぬ。

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