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第十二章 鬼の岩屋 一(1)
日期:2023-12-28 13:53  点击:237

第十二章  鬼の岩屋

    一

 鬼の岩屋と地下の抜け穴の探検のまえに、ひとつの実験が行われた。

 片腕の男が消えたというダリヤの間と、天坊さんの殺されたヒヤシンスの間が、隣同士

になっていて、厚さ三尺をこえる煉れん瓦がの壁を中心として、左右相称になっているこ

とはまえにもいった。

 しかも、その真下におなじ作りの部屋がふたつならんでいて、これまた二階のふたつの

部屋とおなじように左右相称になっているのである。しかし、階下のふたつの部屋のさか

いは、背中合わせになっている暖炉の部分はべつとして、あとは装飾されたうすい羽目板

になっている。したがって必要におうじてその羽目板をとりはずすと、二十四畳の広間が

えられることになっている。しかし、この事件の場合装飾された羽目板ははめられてお

り、ダリヤの間の真下が篠崎夫婦の部屋になっていることは、まえにもいったとおりであ

る。

 ところが、きのうの午後、篠崎慎吾が天坊さんとの会見をおえて自分の部屋へかえって

くると、扉のうえに倭文子の張り紙がしてあったので、自分の書斎へとじこもったという

のは、すなわち隣の部屋のことである。

 このふたつの部屋にはそれぞれ独立したベランダがあるが、用心ぶかい種人閣下の設計

で、ベランダとベランダとのあいだには目隠しが施されており、どちらのベランダからも

むこうをうかがえない仕組みになっている。しかも、ふたつのベランダから同時にふたり

の人間が庭へおりたとしても、バッタリ顔を合わせるなんてことのないように、植え込み

や庭石が配置されているのである。そして、そこからふたつの迷路が、いずれどこかで合

流しているとしても、ながながとこの名琅荘の庭園を迂う回かいしており、この庭園の散

歩者はどこをそぞろ歩きをしていても、どこからもだれからもうかがわれないように、死

角を形づくっているということもまえにいっておいたとおりである。

 ところが、ゆうべは倭文子が日本座敷のほうで寝たいといいだしたので、慎吾はダリヤ

の間の真下の部屋でひとりで寝たのだが、問題はその部屋の居間や寝室にいて、ヒヤシン

スの間の浴室でシャワーがほとばしっているのが、聞こえないかどうかということであ

る。

 実験の結果、その点に関するかぎり慎吾はシロだった。明治出来のこの建造物は優雅と

か瀟しよう洒しやとかいう点にかんしては、大いに欠けるところがあるかもしれないけれ

ど、そのかわりおよそ堅けん牢ろう無比にできていて、シャワーの音はおろか、そこで

ちょっとした格闘が演じられたとしても、慎吾の耳にとどく可能性はまずなさそうであっ

た。また慎吾が寝室にいたとすると、抜け穴の中をひとりやふたり上り下りしたところ

で、わからなかったであろうほど、すべては堅牢にできていた。

 この実験がおわったころ、警察から田原警部補に連絡があった。

 当地の電話局を調査したところ、金曜日の午前十時十分、たしかに東京から名琅荘に電

話がかかってきたそうである。ただしそれが真実慎吾からかかってきたものかどうか、電

話局でもたしかめようがなかった。電話は慎吾の自宅でもなく、事務所でもなく、さる公

共の建物からかかっているのである。そこならだれでも出入りができるのだが、さてだれ

がその建物の電話を利用したかということになると、調査は容易なことではなかった。だ

れかが慎吾の名をかたったのか、あるいは意地の悪い見方をすれば、慎吾自身であるかも

しれなかった。どちらにしても金曜日の朝、東京から電話がかかってきたという、お糸さ

んの言葉に噓うそはなかったということが立証されたわけである。

 つぎに慎吾の名刺だが、その線から片腕の男を手た繰ぐっていくというのも難しいよう

だ。慎吾は顔のひろい男である。かれの名刺を手に入れるということはそうたいした難事

ではない。名刺に書かれた文字も専門家によって鑑定されたが、それは慎吾の筆跡によく

似ているが、かならずしも慎吾自身の筆跡であると、いまのところ断定しがたいというの

である。しかし、これなども意地悪い見方をすれば、慎吾自身がわざと紛らわしい字をか

いたのではないかと、いっていえないこともなさそうである。

 かくてダリヤの間から消えた、真野信也なる片腕の怪人物の正体については、事件が

すっかりかたづいた現在においても、ごく一部のひとびとをのぞいては、不明のままに

なっている。

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