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第十二章 鬼の岩屋 一(2)
日期:2023-12-28 13:55  点击:280

 さて、鬼の岩屋と地下の抜け穴の探検に着手されたのは、その日の午後二時ジャストの

ことである。金田一耕助は田原警部補とともに、柳町善衛の案内で、岩屋のほうから潜入

することになった。ほかに私服がふたり参加したのは当然として、混血児の速水譲治が一

行のなかにくわわっているのが注目された。

 タマ子の行ゆく方えがわからなくなってからの譲治の興奮は大きかった。彫りのふかい

顔がまっかに紅潮し、眼はギラギラと血走って、気が狂うのではないかと思われるばかり

であった。かれはこの探検に参加することを熱望してやまなかったが、それが許されたの

は金田一耕助のとりなしによるところである。

 金田一耕助は譲治にたいしてある種の強い疑惑をもっている。この青年はかれが装うて

いるよりも、もっといろいろなことをしっているのではないか。また鬼の岩屋や地下の抜

け穴の内部についても、ひとびとが考えている以上に精通しているのではないかと。

 さて、問題の鬼の岩屋の入り口というのは、名琅荘の建物から小一丁ほど離れたところ

にあり、名琅荘の西北につらなる小高い丘の一部が、岬みさきのように突出しているのだ

が、その岬の突端が高さ五丈ほどある断だん崖がいとなって落下している。その断崖のふ

もとにポッカリ口をひらいた洞どう門もんがある。それが富士の人穴までつづくといわれ

る鬼の岩屋の入り口である。

 その洞門は名琅荘の建物からいえば、西の側面にあたっており、その昔、種人伯爵が日

常起居したであろうとおもわれる、日本家屋の翼にいちばん近かった。

 昭和五年のあの惨劇があった当時は、この日本家屋と洞門の中間に東あずま屋やがあっ

たそうだが、それはもうあとかたもなくなっている。それでも家屋にちかいほうはちかご

ろ慎吾の配慮から、迷路を形成している植え込みや袖そで垣がき、庭石などがよく手入れ

されているが、洞門のほとりは鬱うつ蒼そうとおいしげる雑ぞう木きが枝をひろげて、荒

廃の跡がいちじるしかった。

 さて、問題の洞門だが、これはそうとう大きなもので、高さは一丈五尺くらいもあるだ

ろうか、いびつになったアーチ型をなしており、縦に裂けた岩の亀裂が、ながながと奥深

くつづいているのである。それは鍾乳洞ではなかった。金田一耕助は地質学者ではないか

ら、どうしてこういう洞どう窟くつができたのか知るよしもない。だが、それが人工的な

ものでないことだけはあきらかなようだ。洞門は崖がけのうえから垂れさがったタコの脚

のような大木の根や、付近に生いしげる雑木の枝にはんぶん覆いかくされていて、そうで

なくともおりからの曇り空のもと、陰森として無気味であった。

 昭和五年の事件のころこの洞門には注し連め縄なわが張られ、げんじゅうに柵でかこわ

れていたものだが、いまはもう跡形もなくくずれ、陰湿の気があたりをおおうている。

 さて、さっきもいったとおり、いまこの洞門のまえには金田一耕助と田原警部補、柳町

善衛に速水譲治、ほかに私服がふたりと六人の男が待機している。田原警部補がさっきか

ら、しきりに時計を気にしているのは、時を同じゅうしてダリヤの間の入り口から、井川

刑事の一行が抜け穴へ潜り込むことになっているからである。タマ子の行方も捜索する

が、柳町善衛のいうように、この洞窟と抜け穴がどこかで接触あるいは交流しているかど

うか、探検してみようというのがこの試みの目的のひとつであった。

 やがてジャスト二時。

「金田一先生」

 田原警部補が時計を見ながら合図をした。

 譲治は逸はやりきった競けい馬ば馬うまのようなものである。号砲一発洞門のなかへ突

撃しようとするのを、金田一耕助が制止した。

「譲治君、ちょっと待った。ここは一番柳町さんにご案内ねがうとしようじゃないか。そ

れとも君は柳町さんより自分のほうが、この洞窟の内部に精通しているという自信でもあ

るのかね」

 譲治はひるんで足をとめた。それから金田一耕助にむかって反抗するように肩をそびや

かしたが、それでも素直にからだを開いて柳町善衛に道をゆずった。

「柳町さん、さあ、どうぞ。田原さん、あなたは柳町さんとご一緒してください。ぼくは

譲治君と肩をならべていきます。刑事さん、あなたがたおふたりはしんがりをつとめてく

ださい」

「うっふっふ」

 譲治はふてくされたような笑いを発すると、

「先生はあくまでもこのぼくを、監視しようという了見なんですね」

「そりゃそうさ、君は要注意人物なんだからね。あくまでもぼくの厳重な監視下においと

くんだ。ちょっとでも変なまねをすると、このふたりの刑事さんにお願いして、とりおさ

えていただくからそのつもりでいろ。いっとくがおふたりとも歴戦の勇士で、しかもおふ

たりとも柔道三段の免状をもっていらっしゃるそうだ」

 そういえばふたりの私服がふたりとも、タイプこそちがえ獰どう猛もうな面構えをして

いる。

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