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第十二章 鬼の岩屋 一(3)
日期:2023-12-28 13:56  点击:257

「おどかしっこなしにしてくださいよ、金田一先生、おれなにも変なまねをしようという

んじゃねえんだ。おれはただタマッペのことが気になってたまらねえんだから」

「わかってる、わかってる。それじゃおとなしくぼくと一緒にいくんだ。刑事さん、ひと

つあとからついてきてください」

 こういう小競り合いがあって金田一耕助と譲治が、肩をならべて洞門のなかへ潜り込ん

だとき、柳町善衛と田原警部補はすでにひと足さきんじていた。さいごにふたりの私服が

警戒の眼を光らせながらついてくる。めいめい懐中電灯をふりかざしていることはいうま

でもない。

 さっき筆者は譲治のことを、洞門にむかって突撃しようとしたという意味のことをかい

たが、それを読んだ読者諸君が、譲治が洞門のなかへ駆け込もうとしたと解釈されたとし

たら、筆者の描写が拙劣だったということになる。

 その洞門はとても勢いよく駆け込めるなどという、なまやさしいしろものではなかっ

た。ゆうべ金田一耕助たちがぬけた抜け穴のほうは、人工的に床が平板化されているが、

こちらのほうは岩また岩の累積である。しかも重なりあった岩たちは、みんな適当に丸味

をおびているうえに、このへんいったいの陰湿な空気のためか、いちめんに苔こけがむし

ているので、うっかり勢いよく駆け込もうとでもしようものなら、滑って転んで岩と岩と

のあいだにはさまれて、大骨折でもするのが関の山だろう。

 それはまるで岩と岩とのあいだを、千番に一番のかねあいで綱渡りをして歩くも同然

の、危険このうえもない通路であった。

 しかも洞窟をささえている壁そのものが、ゆうべの抜け穴のように平板ではない。途中

に瘤こぶのような巨大な岩の突起があって、その下をくぐりぬけていかねばならぬような

個所があるかと思うと、数十匹の大蛇がからみあってはいのぼっているような、複雑な襞

ひだをなした壁があり、しかもその壁いちめんにヌラヌラとした苔がむしているので、

うっかりその壁に身をささえようとして手をつくと、ツルリと手をすべらせる危険があっ

た。

 しかも、こういう危険な通路は、洞門から直角についているのではない。洞門をはいっ

て五、六間もいかぬうちに急カーブをなしており、そこからさきは懐中電灯なしでは一歩

もすすめなかった。こういう紆う余よ曲折がまっくらがりのなかを、どこまでつづいてい

るのかわからないのである。

「なるほど、田原さん」

「はあ」

「これでは昭和五年の事件のさい、尾形静馬という人物が、ここへとび込んだとわかって

いながら、警官隊があとを追うのに躊ちゆう躇ちよしたのもむりはありませんね」

「金田一先生、よくいってくださいました。おまけにはじめのうち尾形静馬は、日本刀を

持っているものだとばかり思いこまれていたのですからね」

 なるほど日本刀をひっさげた手負い猪じしのような犯人が、こういう危険な洞窟のどこ

に潜んでいるかわからぬとあっては、いかに当時の勇猛果敢な日本の警官隊も、あとを追

うのに逡しゆん巡じゆんせざるをえなかったであろう。しかし、その尾形静馬はその後ど

うしたのであろうか。

「金田一先生、ぼくは洞窟のこの部分を、蟻ありの門と渡わたりとよんでるんですが、先

生はこの洞窟をどうお思いになりますか」

 まえをいく柳町善衛が声をかけた。

「どう思うとおっしゃいますと……?」

「いや、この洞窟の発生というか起源についてですね」

「ああ、そのこと。……柳町さんはそのことについて、なにかお考えがおありですか」

「いやあ、これはまったくの素人しろうと考えなんですがね。この洞窟は昔……それも何

万年か何十万年かの昔、せまい峡谷かなんかだったんじゃないかと思うんです。左右をこ

のとおり峨が々がたる岩石にさえぎられた……」

「なるほど、なるほど、それで……?」

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