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第十二章 鬼の岩屋 一(4)
日期:2023-12-28 13:56  点击:244

「そこへ富士山の大爆発があった。そして、このへんいったいを熔岩や灰でおおいつくし

たが、この峡谷はあまりせまかったのと、左右を支える岩石があまり強固だったので、こ

こだけは埋めのこされたのではないかと思うんですがね。あっはっは、いや、これはまっ

たくの素人考えですがね」

「いや、いや、それはなかなかの名論卓説ですね。そうするとゆうべわれわれが抜けた抜

け穴ですが、あれはやっぱりあなたがゆうべ指摘なすったとおり、感じからいうといまわ

れわれの歩いているこの洞窟より低い位置にあると思われるんですが、あれなんかも太古

の峡谷の名な残ごりなんでしょうかねえ」

「はあ、このへんいったい小ちゃな峡谷が縦横無尽にいっぱいあった。それが大爆発のつ

ど埋められていったが、部分的にはあとにのこった。水源地が爆発のために埋められるか

移転するかしたので、こういう洞窟というかたちになったんじゃないんですかねえ。それ

を先々代の古館伯爵がつなぎあわせ、補修して、ああいう抜け穴として完成なすったん

じゃないでしょうか」

「いや、それはますますもって名論卓説ですが、さて、現実の問題としてこの洞窟、どこ

までもこういう岩また岩の綱渡りのみちがつづくんですか」

 金田一耕助が心細い声を出したのもむりはない。時計はいま二時五分を示している。あ

の洞門から潜り込んですでに五分を経過するのに、いまだに足場の悪い岩また岩の蟻の門

渡りである。

「ああ、いや、もう間もなくわりに平坦な砂利道へ出ます。ぼくがかりに夢の雪渓と命名

してるとこですがね。ああ、そうそう、田原さん」

「はあ……?」

「そこまでいくとゆうべわたしが、この洞窟へ潜り込んだという証拠が遺ってるんじゃな

いかと思うんですよ」

「と、おっしゃると……?」

「いや、わたしはさっきから岩のうえを注意してるんですが、これじゃ足跡ものこりませ

んね。たまに足跡らしきものはあっても、だれの足跡だとハッキリ指摘するのは困難で

しょう。しかし、もう少しいくとわりに平坦な砂利道へ出ます。その砂利というのがまる

で川砂利みたいなんです。金田一先生」

「はあ」

「わたしがここを昔の峡谷のあとだろうと推理したのも、その砂利からきているんですが

ね」

「ああ、なるほど、それで……?」

「ですからそこまでいくとわたしの足跡……この靴の跡がのこってるんじゃないかと思う

んです」

「なるほど、そうすると、ゆうべあなたがこの洞窟のなかにいたということが立証される

わけですね」

「はあ、なにしろこのへんいったいがジケジケしてるでしょう。奥へいってもおなじこと

です。砂利はジットリぬれてますからね。きっと足跡がのこっていると思うんですよ」

 柳町善衛のいうとおり、そのへんいったい漏水がはげしく、壁をつたっていたるところ

に滴々として水がしたたりおちており、それが苔や羊し歯だなどの隠花植物の成育をうな

がすらしく、そうでなくとも足場のわるい岩また岩の通い路に、うっかり壁へもとりすが

れないのである。

「しかし、柳町さん」

 と、そばから田原警部補が声をかけた。

「あなたこういう危ない岩だらけの路を、よくもライターの灯ひで通り抜けられました

ね」

「ところがね、田原さん、わたしはこの路にはわりになれているんですよ。はじめは尾形

静馬氏のことで興味をもったんですが、のちにはいまもいったとおり、この洞窟の起源が

わたしの好奇心を刺激したんですね。ここへくるとかならずこの洞窟へ潜り込んでみる。

こんな場所ですから、何年たっても変わりやしません。わたしは岩のひとつひとつを憶え

ているくらいですからね。ほら、どうやらいちばん危険な個所はとおりすぎたようです」

 先頭に立った柳町善衛が、懐中電灯の光で前方をなでまわしたとき、あとにつづいた一

同は、おもわず驚きの声をはなたずにはいられなかった。

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