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第十五章  大崩壊 二(1)
日期:2023-12-29 16:24  点击:217

 崩壊の音はつぎからつぎへと押しよせてきて、まもなくモグラの穴から土臭い匂におい

が立ちのぼってきた。このようすではモグラの穴のむこうの出口も、落磐で埋まってし

まったにちがいない。

「出ましょう。とにかくここを出ましょう」

 この鬼の岩屋はよほど頑丈にできているにちがいない。地下の大崩壊にもかかわらず、

蟻の門渡りは小ゆるぎもしてなかったのが、三人にとっては仕合わせだった。跛の井川刑

事をしんがりに、鬼の岩屋から脱出すると、

「おやじ、君は仁天堂のほうへまわれ。あとからだれか派遣するからな。だけどおれが許

可するまでは絶対になかへ入るな。テキはピストルを持っているし、落磐はまだつづいて

いるようだ。金田一先生、われわれは日本座敷のほうへいってみましょう」

 日ごろ温厚なこの警部補も、こういう場合はテキパキとして能率的である。途中出会っ

た私服のふたりのひとりを仁天堂へ、ひとりを鬼の岩屋のほうへむかわせると、自分はひ

たすら走りに走った。金田一耕助も借りものの袴の裾をヒラヒラさせながら、警部補のあ

とを追って走った。

 篠崎夫婦の寝所はすなわちそのかみの種人閣下の寝所である。十二畳の日本座敷に十畳

のつぎの間がついており、奥のふかい大きな床の間に床とこ脇わきがついていて、床脇の

下部は地袋になっているが、その地袋がくせものなのである。その背後の壁が床ごとくる

りと回転するようになっているのは、あの仁天堂とおなじ仕掛けである。

 寝所には寝床がふたつならべて敷いてあるが、ひとつが蛻もぬけの殻からなのはそこに

倭文子が寝ていたのだろう。寝床はそうとう乱れている。

 もうひとつの寝床のうえに慎吾が仰向きに寝かされていて、お糸さんのお手伝いで、深

尾看護婦がかいがいしく手当てをしていた。森本医師はもう引き揚げていたけれど、看護

婦がおなじ屋敷内にいたということは、慎吾の運が強かったというべきだろう。老練な看

護婦というものは、ときにとっては若い駆け出しの医者よりもたよりになるものなのであ

る。

 金田一耕助と田原警部補が入っていくと、慎吾が枕から頭をもたげてニヤッと笑った

が、その笑顔はどこか悪戯いたずらを見つかった悪戯小僧のように、きまりが悪そうでは

んぶんベソをかいていた。だが、それは金田一耕助や警部補を安心させるに十分だった。

 金田一耕助がそばへよって手を握ってやると、それを握りかえした慎吾の掌は温かく、

力がこもっていた。

「看護婦さん、傷は……?」

「大丈夫でございます。一発はただかすっただけ、一発は腹部に命中してますが急所を外

れています。もう少しうえだったら心臓をやられていたでしょうがねえ」

 看護婦の声はそっけなかったが、この際、かえってそのほうが頼もしかった。

「大丈夫でございますぞな。旦那様は根がお丈夫にできていらっしゃいますけんなあ」

 お糸さんの甘いとろけるような声をきいたとき、警部補は卒然として、さっき金田一耕

助からきいた言葉を思い出していた。

 あのばあさんもう少し若ければ、篠崎さんを口説いていたであろうと。

 そのとき床脇の地袋から譲治につづいて、久保田刑事がはい出してきた。刑事はピスト

ル片手にひどく興奮している。田原警部補がそのほうへ近寄って小声でたずねた。

「やっぱり片腕の男らしいですね。そいつがご主人を狙そ撃げきしておいて、奥さんをこ

の抜け穴からひっさらっていったんです」

「君はどうしてそれを知っているんだ。片腕の男を見たのか」

「だって御隠居さんやこの青年にきいたんです。このひとたち今夜このちかくの座敷に寝

ていたんだそうです。銃声がきこえたのでとび込んでくると、ご主人がここに倒れてお

り、この壁のむこうで、助けてえ、助けてえ、片腕の男が……片腕の男が……と、奥さん

の叫ぶ声がきこえたそうです」

 なるほど、そういうご趣向になっていたのかと、金田一耕助と田原警部補は顔見合わせ

てうなずいた。

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