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金縁の鼻眼鏡(8)
日期:2024-02-20 14:51  点击:228

 というのは、私がまだシベリアにいた頃、夫は私を叱責した手紙をよこし、その中で私

の日記の数行を引用していたからです。しかし夫はひねくれ根性の男ですから、素直に渡

しっこないことはわかっていました。私は自分で奪うほかありません。この目的で私は私

立探偵社から一人のスパイを雇い、これを秘書として夫の家に住み込ませました。……セ

ルギウス、それがあなたの二度目の秘書、あのすぐにやめてしまった男なんですよ。彼は

日記や手紙が戸棚にしまってあるのを見つけ、鍵の押し型まで取ってくれたのですが、そ

れ以上のことはやろうとしませんでした。彼はこの家の見取り図を書いてくれ、午前中は

秘書は主人の部屋に呼ばれて仕事をすることになっているから、書斎には誰もいないと教

えてくれました。そこでついに私は勇気を鼓 して、自分で日記類を奪いにやって来たので

す。私は成功しました。しかし何とまあ、高価な代償がいったことでしょう!

 私が日記と手紙を手にして、ふたたび戸棚に鍵を掛けているとき、あの青年が私をつか

まえたのです。私はその朝、青年に会っていました。道で出会ったのです。私は彼が夫の

秘書だとはつゆ知らず、コーラム教授の家はどこかと、尋ねてしまったのです」

「そうだ! まったくその通りだ!」ホームズは言った。「秘書は帰って来て主人に、そ

の出会った女のことを話したんだ。そこで、いまわのときに彼は、あの女だ……先ほど先

生にも話した女だ……と伝えようしたのだ」

「私に話させて下さい」夫人は命令するような声で言った。苦しいのか、その顔はゆがん

でいた。「青年が倒れて、私は部屋から飛び出したのですが、ドアを間違えて、気がつく

と私は夫のこの部屋に入っていたのでした。夫は私を警察に引き渡すと言いました。しか

し私も、もしそんなことをすれば、私だって夫の生死を握っているのだと言ってやりまし

た。もし夫が私を官憲に渡すなら、私は彼を仲間に渡すことができるのです。それは決し

てわが身かわいさのためではありません。私は私の目的を貫徹したいと思ったのです。夫

は私が言ってやったことを私が本当にやる……そして自分の命も妻の運命にまきこまれて

いる……ことを知りました。ただこれだけの理由で、夫は私をかくまったのです。夫は私

をずっと、彼しか知らない、あの暗い場所に放り込みました。夫は自分の部屋に食事をと

りよせ、その一部を私に与えました。警官がこの家を離れたら、夜陰に乗じて私は逃げ出

し、ふたたび帰って来ないことにするということで、協定ができたのです。しかしどうし

てか知りませんが、あなたがこの計画を見破りました」

 夫人は服の胸から小さな包みを取り出した。

「これで私の話はおしまいです。ここにアレキシスを救う書類がございます。私はあなた

の名誉と正義を愛するお気持を信じて、これをお預けします。どうかお取り下さい! こ

れをロシア大使館に届けて下さい。これで私の務めは終りました、さて……」

「やめろ!」ホームズが叫び、一足とびに彼女に躍 おど りかかって、その手から小さな薬瓶

をもぎ取った。

「もう遅すぎます!」夫人はベッドに倒れこみながら言った。「もう遅いのです! 私は

隠れ場を出る前に毒を飲みました。頭がふらふらする! もう駄目です! お願いしま

す、この書類包みを忘れないで!」

「簡単な事件だったけれども、学ぶ点もあったよ」ホームズはロンドンへ帰る汽車の中で

言った。「この事件は出発点から鼻眼鏡に鍵があったわけだ。もしあの死んだ青年が鼻眼

鏡を握っていたという好運がなかったら、解決できたかどうかわからないからね。あの眼

鏡の度の強さからおして、これをとられてしまったら、まったく盲人同然で、動きがとれ

ないことは明らかだった。君も覚えているだろうが、君が細い草の帯に残っていた足跡が

一歩もわきに踏みはずされていないと言ったら、僕はそれは注目すべき行動だと言っただ

ろう。彼女がひかえの眼鏡でも持っていない限り、そんな歩き方はできないはずだと僕は

思ったんだよ。

 そこで僕は彼女がまだ家に留っていると仮定して、慎重に考えたわけだ。それから廊下

が二つとも非常によく似ているのを見て、彼女が間違えるなんて、いともたやすいこと、

もし間違えたなら彼女は必ずや教授の部屋にいるに違いないとみた。だから僕の立てた仮

説の裏づけになるようなものはないかと極力注意し、あの教授の部屋にどこか隠れ場所に

なるようなところがないかと調べてみたんだ。絨毯は別段つなぎ目もないし、しっかり釘

づけになっているから、床に落し戸でもないかという考えはまずだめになった。しかし本

棚の後ろに場所があるかもしれない。

 君も知っての通り古い図書館なんぞには、よくそんな具合になっているのがあるから

ね。そのうち床にはそこらじゅう本が積み重ねられてあって、一か所だけ本棚の前がか

らっぽになっているのに気がついた。こいつはきっとドアになってるに違いない。たしか

にそうかはわからないけれども、調べるにはちょうど具合よく絨毯が焦茶色だ。そこで僕

はあの上等な煙草を猛烈に吸って、灰を問題の本棚の前一面に落としておいた。これは簡

単なトリックだが、みごと功を奏したよ。それから階下へ降りてね、ワトスン君、君も

いっしょにいて僕の言ったことに気づかなかったようだが、コーラム教授の食欲が増進し

たということを聞いて……誰かに飯を分けてやっているんじゃないかと思った。ふたたび

二階に上がって行って、僕は煙草の箱を引っくり返し、床の上を十分点検してみた。する

と明らかに僕たちのいない間に隠れていた奴が出て来ている跡が、煙草の灰の上にあるん

だね。さて、ホプキンズ君、チャリング・クロスに着いたよ。事件がうまく片づいてよ

かったね。君はもちろん警視庁へ行くんだろう。ワトスン君、僕らはロシア大使館へ行こ

うよ」

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