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35 遺跡
日期:2024-06-28 13:42  点击:238
35 遺跡
葉文潔イエ?ウェンジエが自力でレーダー峰に登頂できるとは、だれも信じていなかった。しかし最終的に、文潔はやりとげた。道中だれの助けも借りず、いまはもう使われていない山腹の歩哨小屋で二度ほど休んだだけだった。文潔は、とり戻すことのできない活力を惜しみなく消費した。
 三体文明の真実を知ってから、文潔は貝のように口を閉ざして、ほとんどしゃべらなくなった。だが、ひとつだけ、あることを要望した。それが、紅岸基地の跡地を再訪することだった。
 一行がレーダー峰に登頂したとき、その頂は、ちょうど雲から顔を出したところだった。白い靄の中を一日がかりで歩いてきたあと、西のほうに輝く太陽と紺こん碧ぺきの空を目にすると、新しい世界へ足を踏み入れた気がした。頂上から四方を見渡すと、陽の光のもと、白銀の雲海が広がっている。なだらかに起伏する雲の波は、その下にある大興安嶺を白く映したまぼろしのようだった。
 一行が想像していたような基地の廃墟は存在しなかった。基地は完全に解体され、峰に残るのは、荒れた草地だけだった。建物の基礎や道路はその下に埋もれてしまい、ただの荒野にしか見えない。紅岸プロジェクトなど、最初から存在しなかったかのようだ。
 だが、文潔は、ほどなくあるものを見つけた。背の高い岩のそばに歩み寄り、岩を覆っていた蔓つる植物を引きはがすと、まだらに錆びた表面が現れた。他のメンバーは、そのときようやく、岩だと思っていたものが、大きな金属製の土台だということに気がついた。
「これはアンテナの土台」と文潔が言った。地球外知性がはじめて聞いた地球文明の叫びは、まさにこの場所にあったアンテナから太陽に向かって送信され、太陽で大きく増幅されてから、全宇宙へと放送されたのだった。
徐冰冰シュー?ビンビンは、その土台の横に、小さな石碑を発見した。雑草にほとんど隠れていたが、そこにはこう書かれていた。
   紅岸基地跡地一九六八年―一九八七年
      中国科学院 一九八九年三月二十一日 石碑はごく小さく、記念のためというより、忘却のためのもののように見えた。
 文潔は崖のほうに歩き出した。ここは、文潔がその手でふたりの軍人の命を奪った場所だった。他の同行者が雲海の向こうを眺めているあいだ、文潔の視線はべつの方向をじっと見つめていた。その雲の下には、斉家屯という小さな村がある。
 文潔の心臓が苦しくなり、いまにも切れそうな琴の弦のように鳴りはじめた。目の前に黒い霧がかかったような気がした。文潔は生命の最後のエネルギーをふりしぼってなんとか耐えた。すべてが永久に暗闇へ入ってしまう前に、もう一度、紅岸基地の日の入りを見たいと思った。
 西の地平線の向こうでは、雲海の中へゆっくりと沈む夕日が、まるで溶けていくように見えた。雲とひとつになった太陽の光が、空の大きな一画を壮大な血の赤で染める。
「これが、人類の落日──」文潔は静かにつぶやいた。
 
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