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四 前代未聞の大事件(3)
日期:2024-07-30 17:11  点击:308
「ここを見たまえ!」教授はぐっと身をのりだして、毛の生えたソーセージのような太い指で絵を突っついた。「動物のうしろに植物が見えるだろう。きみはこれをタンポポか芽キャベツのたぐいと思ったんじゃないかね? ところがさにあらず、これはゾウゲシュロという植物で、高さは五十フィートから六十フィートもある。となると、この人物はある目的のために描かれたものだとは思わんか? まさかこんな動物のすぐ前に立って、無事にスケッチができたなどとは考えられない。つまり、高さの比較のために自分自身を描き入れたのだ。木の高さが人間の十倍ほどあるが、これは当然のことなのだ」「驚きましたね! すると、この動物は――なんてこった、これじゃチャリング?クロス駅にだって入りきれませんよ!」「誇張はともかくとして、確かにこれはよく育った動物だ」教授は満足そうに言った。
「しかしたった一枚のスケッチのために、人類の長い体験を無視することはできません」わたしはページをめくってみて、ほかにこの種の絵はないことを確かめた。「しかも放浪のアメリカ人画家がハシーシュの幻覚か熱病のためもうろうとした意識の中で、あるいは気まぐれな空想を満足させるために描いたのかもしれないたった一枚のスケッチなんですよ。かりにも科学者ともあろう方が、そのようなことをおっしゃってよいものでしょうか」 答えるかわりに、教授は本棚から一冊の本を取り出した。
「これはわしのすぐれた友人レイ?ランカスターの手になるりっぱな論文だ! この中のある挿絵が、おそらくきみの関心をひくだろう。これこれ、ここにあるやつだ。説明はこうだ。『ジュラ紀に棲息した恐竜の一種、剣竜の生態想像図、後肢だけで成人の二倍の高さがある』さあ、きみ、これをどう思うね?」 彼は問題のページを開いた本をわたしに手渡した。わたしは一目見てびっくりした。この死滅した世界の動物の復元図は、たしかに無名の画家の手になるスケッチと驚くほどよく似ているではないか。
「なるほど、驚くべきことです」
「だが、決定的だとは言いたくないのだろう?」
「ええ、単なる偶然の一致か、あるいは画家が前に見たことのあるこの種の絵を記憶にとどめていたのかもしれませんからね。錯乱状態の人間にはよくあることですよ」「よかろう」教授はばかに寛大だった。「それはひとまずおくとして、つぎにこの骨を見てくれんか」彼は死んだ男の持物だったと説明した例の骨をさしだした。長さはほぼ六インチ、わたしの親指より太くて、一方の端に乾いた軟骨らしきものが認められた。
「これはなんの骨だと思う?」
 わたしは注意深く観察して、忘れかけた知識を思いおこそうとつとめた。
「骨組のがっちりした人間の鎖骨かもしれませんね」 教授はさも軽蔑に耐えないといったようすで手をふった。
「人間の鎖骨は曲がっているが、これはまっすぐだ。表面に溝が走っているが、これは太い腱けんの跡と考えてよかろう。つまり鎖骨でないことは明らかだ」「そうなると、正直なところわたしには見当もつきません」「知らないからといって恥じる必要はない、おそらくサウス?ケンジントン中探しても、これがなんの骨だか知っている者はおるまいからな」そして今度は豆粒ほどの骨を丸薬入れの中からとりだした。「わしの見るところ、この人間の骨と、今きみが手に持っている骨は同種のもののように思われる。とすると、この動物の大きさの見当がつくだろう。しかも軟骨の部分から判断して、これは化石ではなくまだ新しい標本だ。さあ、どうかね?」「きっと象の骨も――」
 彼はどこか痛むところでもあるかのように顔をしかめた。
「やめたまえ! 南アメリカに象などおらん!いくらこのごろの質の低い小学校でも――」「では、南アメリカに棲む巨大な動物――例えばバクではどうですか」「わしの専門的知識を信頼してよろしいぞ、マローン君。この骨はバクであれ何であれ、動物学上知られている動物の骨だとは考えられんのだ。これは巨大で、力強く、あらゆる類推からして、きわめて兇暴な動物で、地球上に現存してはいるがいまだに科学の対象とされていないものの骨なのだ。きみはおそらく信じないだろうがね」「少なくとも大いに興味はあります」「それなら脈はある。きみという人間のどこかに理性がひそんでいるようだから、ひとつ気長にそれを探してみようではないか。死んだアメリカ人のことはひとまずおいて、わしの話に進もう。わしがこの問題をもっと深く探究せずにアマゾンから帰る気がしなかったことは、きみにも想像がつくだろう。死んだアメリカ人がどの方角から来たかはわかっていた。もっとも、インディアンの伝説だけでも手がかりとしては十分だったろう。川ぞいに住む種族の間では、どこでも不思議な土地の話を聞くことができたからね。きみもクルプリの話は聞いたことがあるだろう?」「いや」
「クルプリは森の精だ。恐ろしくて、意地が悪く、近寄らないほうがいいとされている。
だれもその形や性質を説明できる者はおらんが、アマゾン川ぞいでは一種の禁句になっておる。どの種族の間でも、このクルプリが住む方角は一致している。かのアメリカ人はその方角からやってきたのだ。何か恐ろしいことがあるのは確かだった。その正体を確かめるのがわしの仕事だったというわけだ」「で、どうなさったんです?」わたしの軽薄さはすっかり消えていた。このどっしりした人物は相手の注意と敬意をひきつけずにはおかないらしい。
「わしは土民たちの尻ごみを押しきって――なにしろ連中はそのことを口にするのもいやがるのだ――説得したり贈り物を与えたり、白状すれば少しばかりおどしもして、ようやくそのうちの二人に案内役を承知させた。言葉につくせない数々の冒険と、めざす方角に向かって長い旅をしたあとで、われわれはついに話に聞いたこともなければ、かの不幸な先駆者をのぞいてはだれ一人として訪れたこともない地方にたどりついた。ではこれを見てくれたまえ」 彼は半截せつ程度の一枚の写真を渡した。
「この写真のうつりがあまりよくないのは、川を下る途中で小舟が転覆てんぷくして、未現像のフィルムを入れた箱がこわれてしまったためだ。大部分のフィルムは全然使い物にならなかった――とりかえしのつかない損失だ。助かったごくわずかのうちの一枚がこの写真というわけだよ。不鮮明なのはそのせいだが、きみなら認めてくれるだろう。これを見て作りものだと言うものもおった。もっともわしは今そのことをとやかく言うつもりはないがね」 なるほど写真はひどく影が薄かった。心ない者が見たら、このぼんやりした画面を誤解するのも無理はない。ごくありふれた風景だが、細部を注意して見ると、まるで巨大な滝のような断崖が高々とそびえ立ってつづいており、前景にはゆるやかに傾斜した森林地帯を見分けることができた。
 
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09/22 06:58
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