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七 明日は秘境に入る(3)
日期:2024-07-30 17:18  点击:304
 「良識ある諸君のことだから、きっとわしの反対を耐えしのんで、結局わしが自分の思い通りに行動し、わしの存在が必要となった瞬間に姿を現わすほうがずっとよいということに気がついてくれるだろう。その瞬間が今やってきたのだ。もう案ずることはない。諸君はかならず目的地に到達できる。これから先きはわしがこの探検隊の指揮をとることにするが、明朝早く出発できるよう今夜中に準備を完了しておいてもらいたい。わしの貴重な時間は無駄にできないが、おそらく諸君にしても程度のちがいこそあれその点に変わりはないだろう。だから、諸君が見にきたものを目の前に示すまでは、しゃにむに前進してもらいたい」 ジョン?ロクストン卿は川をさかのぼるために『エスメラルダ号』という大型蒸気船をチャーターしていた。気温は夏冬を問わず華氏七十五度から九十度の間を上下していて、さほどいちじるしい変化がなかったから、出発の時期は大して問題ではなかった。しかし雨量のほうは話が別だ。十二月から五月までが雨期に当たり、この間じょじょに増水して渇水期より水位が四十フィートも高くなる。そうなると水は岸にあふれ、広大な土地を呑みこんで沼沢地となり、この地方の言葉でガポという地域を作る。徒歩で渡るには深すぎ、船では浅すぎるという厄介な地域だ。六月に入ると減水がはじまり、十月から十一月にかけて最低水位に達する。したがってわれわれの探検も、本流および支流が程度の差こそあれ正常な状態にある乾期に予定されていた。
 川の流れは一マイルの落差がわずか八インチ程度だから、きわめてゆるやかなほうだ。
卓越風は東南の風だから、船の航行にこれほど都合のよい川はなく、帆船はペルー国境まで一気に進んで、それから流れとともに下ることになる。われわれの『エスメラルダ号』は優秀なエンジンをそなえているから、ゆるい流れを無視して、よどんだ湖水でも渡るようにどんどん進むことができた。船は三日間北西に向かって川をさかのぼった。河口から千マイルも上流のこのあたりでさえ、ほぼ中央から見る両岸がはるか遠くの水平線上の黒い影にしか見えないほど川幅が広い。マナウスを出発してから四日目に、合流点のあたりでは本流にさほどひけをとらないほどの川幅を持つある支流に入った。しかし、進むにつれて川幅は急速にせばまり、さらに二日後、とあるインディアン部落に到着した。チャレンジャー教授はここで上陸して『エスメラルダ』をマナウスへ帰すほうがよいと主張した。間もなく急流にさしかかるから、この船はすぐ役に立たなくなるというのだ。また、今や秘境の入口は近いから、その秘密をできるだけ人に知らせたくないのだとひそかにつけ加えた。そのため彼は、この旅行の道筋に関する正確な手がかりを絶対に公表したり、ほのめかしたりしないとわれわれに誓わせる一方、召使たちにもそのことを約束させた。
わたしの手記でこの点が漠然としているのはそのためであり、いくつかの場所の関連性を示すわたしの地図や図版はみな正確だが、方位を用心深くちがえてあるから、それらを秘境への手引きとして利用してはならないことを、前もって読者諸君にご注意しておく。秘密にしておきたいというチャレンジャー教授の理由は、あるいは妥当であるかもしれないし、そうでないかもしれない。がともかくも教授は案内の条件を変えるぐらいなら探検そのものを中止するほうがいいとまで考えている以上、われわれとしてもそれを認めるよりほかはない。
 われわれが『エスメラルダ』に別れを告げて、外界との最後のつながりを断ち切ったのは、八月二日のことだった。それ以来四日がすぎた。その間にわれわれはインディアンの大きなカヌーを二隻傭った。これはたいそう軽い材料(竹の枠を動物の皮でくるんだもの)でできているので、障害物に行き当たったときはかついで通ることができた。この二隻のカヌーに全部の荷物を積みこんだうえ、船旅の助手として二人のインディアンを傭った。アタカとイペトゥーというこの二人のインディアンこそ、チャレンジャー教授の前回の旅行のときお伴をした連中だという。彼らはまたこの前と同じ場所へ行くのだと聞いてふるえあがったようすだった。しかしこの地方の酋長の権限は絶対的なもので、交換する品物が彼の気に入れば、部族の者がとやかく言ってもはじまらない。
 かくして明日は秘境に分け入る予定である。この手記は川を下るカヌーに託して送り届けられるが、これがわれわれの運命に関心を持つ人々への最後の連絡となるかもしれない。親愛なるマッカードル氏よ、これは打ち合わせ通り貴下宛てとなっている。削除するなり書き変えるなり、その他どうでもお好きなようにしていただきたい。チャレンジャー教授の確信ありげな態度から判断して――サマリー教授はあいかわらず懐疑的だが――彼が自分の主張を見事に証明するだろうこと、われわれは今このうえなく異様な体験の入口にいるのだということを、わたしはかたく信じている。
 
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09/22 03:35
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