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十五 この目で驚異を見た(3)
日期:2024-07-30 17:40  点击:272
「教授以外の人間だって何かを知りたいと思うことはあるさ」と、ようやく彼は答えた。
「あのかわいいやつを研究してやろうと思ってね。これ以上はきかないでくれ」「気を悪くしたらかんべんしてください」 彼は機嫌をなおして笑った。
「いやいや、ぼくこそ、悪く思わないでくれよ、マローン君。チャレンジャー教授に例の悪魔の子を一匹連れ帰ってやろうと思ったまでさ。目的はほかにもあるがね。いやいや、きみには来てもらわなくて結構、ぼくはこの檻の中にいれば安全だが、きみはそうはいかんからね。じゃさようなら、日が暮れるまでには戻るよ」 彼はくるりと背を向けて、わたしを残したまま、異様な檻に入って森の中へ分け入って行った。
 このときのジョン卿の行動が奇妙だったとしても、チャレンジャーのそれには及ばなかった。彼はインディアンの女たちから見ればきわめて魅力的な存在らしかった。いつも大きなシュロの枝をそばからはなさなかったが、女たちがあまりうるさく近寄ってくると、まるで蠅はえの群か何かのようにそれで追い散らすのである。彼が権威の象徴であるこの枝を手に持って、ひげの先端をピンととがらせ、一歩ごとに爪先をはねあげ、肌もあらわな樹皮の腰みのをまとった目の大きなインディアンの女たちをずらりと従えて、まるでコミック?ァ≮ラのサルタンのように歩きまわる光景は、わたしが心にとどめて持ち帰る絵の中でも最もグロテスクなものの一つである。一方サマリーのほうは台地の昆虫と鳥類の観察に熱中し、一日の大部分を(ただしいっこうに脱出の方法を考えないチャレンジャーの非難に費やすかなりの時間を別として)集めた生物の整理と標本作りですごしていた。
 チャレンジャーは毎朝のように一人でどこかへ出かけては、時おり遠大な計画の重みを一人で背負いこんだ人間のように、物々しい威厳のある表情でふらりと戻ってくる。そんなある日、シュロの枝を手に持ち、崇拝者たちの群を従えながら、秘密の仕事場へわれわれを案内してくれた。
 そこはシュロの林の中央にある小さな空地で、わたしが前に述べた泥の間欠泉がある。
噴泉の周囲には禽竜の皮で作った無数の革紐と、湖の大きな魚とかげの胃袋を乾燥させて平らにのばしたものと思われる大きな袋がぺしゃんこになっていた。この巨大な袋は一方のはしが縫いとざされ、反対のはしだけ小さな穴があいている。この口に数本の竹筒がつきささり、反対のはしは間欠泉の泥を通ってごぼごぼ噴きあがるガスを集めるための粘土製のじょうごにつながっている。間もなくだらりとした魚とかげがゆっくりとふくれあがり、空中に浮きあがりそうな気配を示したので、チャレンジャーがもやい綱を周囲の立木にゆわえつけた。半時間もするとかなり大きな気球ができあがったが、革紐の緊張度から判断して、相当な重量を持ちあげる力がありそうだった。チャレンジャーははじめての子供を目の前にして大喜びする父親のような表情で、おのれの頭脳の産物をさも満足そうに眺めながら、微笑を浮かべて無言でひげをしごいていた。最初に沈黙を破ったのはサマリーだった。
「まさかそれに乗って舞いあがるつもりじゃあるまいね、チャレンジャー君?」と、彼は皮肉な声で言った。
「今からこいつの力をお目にかけるつもりだよ、サマリー君。それを見たら、きみも危険だから乗るのはいやだなどとは言うまい」「そんな考えは今すぐ頭から叩きだすほうがよさそうだね」サマリーはきっぱりと言った。「わたしは絶対にそんな愚かな真似まねをする気になれん。きみだったらこんな気ちがい沙汰に賛成はせんだろうな、ジョン卿?」「すばらしい発明ですよ」と、彼は答えた。「どんな具合か見てみたいですね」「もちろん見せてやるとも」と、チャレンジャー。「この数日間わしは全知全能をふりしぼって、いかにあの崖をおりるかという問題を考えつづけてきた。絶壁を伝わっておりるのは不可能だし、トンネルもないことがわかった。また例の三角岩へ橋をかけることもできない。となると、ほかにどんな方法が考えられるかね? しばらく前、このマローン君に、間欠泉から遊離水素が発生していると話したことがある。それが当然気球という考えに結びついた。正直言ってガスを詰める袋が見つからなくて最初は困ったが、あの爬虫類の巨大な内臓を思いだしたとき問題は解決した。ほれ、仕上げは上々というところだ!」 彼はぼろぼろになった上着の胸に片手をおき、もう一方の手で得意そうに気球を指さした。
 すでに気球は丸々とふくらみ、強い力でもやい綱を引っぱっていた。
「狂気の沙汰もきわまれりだ!」と、サマリーがうそぶいた。
 ジョン卿はこの思いつきがすっかり気に入ったらしい。「老人冴えてるじゃないか、え?」とわたしの耳にささやき、それから大きな声でチャレンジャーに言った。「ゴンドラはどうするんです?」「さよう、つぎはゴンドラだ。だが作り方ととりつけ方はちゃんと考えてある。ま、その前にわれわれ一人ずつの体重を持ちあげる力があるということをお目にかけよう」「四人一緒で大丈夫ですか?」「いやいや、わしの計画ではパラシュートのように一人ずつ降りることになっている。気球はその都度上に引きあげられるわけだが、その方法はいたって簡単だ。要は人間一人をゆっくり下までおろすことができれば、それで目的は達成される。これからその能力をお目にかけよう」 彼はロープをかけやすいようにまん中がくびれたかなり大きな玄武岩の塊りを持ちだした。ロープは三角岩にのぼるとき使ったあと、台地まで持ってきたもので、長さは百フィート以上もあり、細いけれども非常に丈夫である。彼は何本もの紐がたれさがった革製の襟飾りのようなものを準備していた。それを気球の上にすっぽりかぶせて、革紐を下で一つにまとめた。そうすれば下にぶらさがる重量の圧力が気球の表面全体に分散する理窟である。つぎに玄武岩の塊りを革紐にゆわえつけて、そのはしにロープをぶらさげ、チャレンジャーが自分の腕に三度巻きつけた。
「さて」チャレンジャーは喜ばしい期待に顔ほころばせながら言った。「いよいよわしの気球の浮揚力をお見せする」言い終わると、立木にゆわえつけてあったさまざまな革紐をナイフで切った。
 このときほどわれわれの探検が無に帰する危険にさらされたことはなかった。ふくれあがった気球が物すごい速さで空に舞いあがったのである。たちまちチャレンジャーの足が地面からはなれた。間一髪、わたしが浮きあがった教授の腰に抱きついたが、そのわたしまでが空中に持ちあげられてしまった。ジョン卿が必死でわたしの両脚にしがみついたが、彼もまた地上から持ちあげられるのがわかった。一瞬わたしは四人の冒険家が、自分で探検した土地の上空を、じゅずつなぎになってただよう光景を思い描いた。しかし、幸いにも、全然浮揚力の衰える様子もないこの悪魔の発明とは違って、ロープの強さに限度があった。プツンという鋭い音が聞こえたかと思うと、われわれ三人は重なり合って地面に落下し、もつれたロープが頭の上にかぶさってきた。やっとの思いでよろめく足を踏みしめながら立ちあがると、雲一つない青空のはるか彼方に、ぐんぐんのぼってゆく玄武岩が、小さな黒点となって見えていた。
 
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09/21 22:14
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