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破られた約束 二
日期:2024-07-31 23:15  点击:230
 婚礼から七日の間は若妻の幸せを脅かすことは何も起こらなかった──その頃夫は、夜の城に居なくてはならない、とある任務の命令を受けていた。やむを得ず妻を独りで残した最初の晩、彼女は説明しようの無い不安を感じていた──なぜかは分からない漠然とした恐怖であった。寝床に入ってはみたが眠れなかった。空気に奇妙な圧迫感があった──嵐の前の静けさのような言い知れぬ重苦しさである。
 丑の刻あたりで、夜中の屋外から鈴を鳴らす音が聞こえてきた──遍路の鈴だが──どんな巡礼がこんな時刻に侍屋敷の周辺あたりを通り抜けるのだろうと不思議に思った。やがて鈴の音は、しばらく間を置いてかなり近くへ来た。どうやら巡礼は家のすぐ近くまで来ているようだ──でも、どうして後ろから近づくのか、道も無いのに……不意に犬が尋常ではない恐ろしい唸うなりと遠吠えを上げた──そして恐怖は恐ろしい夢を見るかのようにやって来た……鳴っているのは間違い無く庭の中……使用人を起こそうと立ち上がろうとした。しかし体を起こせない──動くことも──叫ぶこともできないと気が付いた……そして更に近く、より一層近くに鈴の響きがやって来た──おおー、どれだけ犬が吠ほえたことか……その時、影が忍び込むように静かに、部屋の中ですっと動く女がいた──どの戸もしっかりとした状態で、どの衝立も動いていないのに──女は経帷子きょうかたびらを着て巡礼の鈴を身に付けていた。目の無い女が来ると──長らく死んでいたため──ほどけて顔の周りに垂れ下がった髪の──乱れたすき間越しに無い目で見て無い舌で話した──「この家ではない──お前が居ていいのは、この家ではない。ここの女主人はまだ私だ。帰るがいい、そして言ってはならん、お前が帰る理由は一言も。もしあの人に言えば、細切こまぎれに引き裂いてやる。」
 そのように話しながら化生けしょうは姿を消した。花嫁は恐怖のあまり気を失った。夜が明けるまでそのままであった。
 それにも関わらず、日中の陽気な日射しの中では見たこと聞いたことの現実を疑った。
警告の記憶はまだかなり重くのし掛かり、見たことを敢えて夫や他の誰にも話さなかったが、具合が悪くなって嫌な夢を見ただけだともう少しで納得できるようになった。
 しかしながら、続く夜は疑いようが無かった。再び丑の刻になると、犬が唸りと遠吠えを始めた──再び鈴の音が響き渡り──ゆっくりと庭から近づいて来た──再び聞き手は起きて叫ぼうと無駄な努力をした──再び死者が部屋へ入って来て非難をした──「帰るがいい、そして誰にも言ってはならん、なぜ帰らねばならぬのか。もしあの人に囁ささやきでもしたら、お前を細切れに引き裂いてやる……」 今度の化生は寝床に近寄り──その上で体を曲げて低く呟つぶやき顔をしかめた…… 翌朝侍が城から帰ると、その前で若妻は自みずから嘆願のためにひれ伏した──「伏してお願い申し上げます、」彼女は言った「このような申し出をする恩知らずで大変なご無礼をお許し下さい、実家へ帰らせて頂きとうございます──すぐに出て行きとうございます。」
「ここは楽しくないのか。」彼は心から驚いて訊ねた。「わしの不在の間に誰かがけしからん意地悪でもしたのか。」
「そうでは有りません──」すすり泣きながら答えた……「ここでは皆がこの上なく良くしてくださいます……けれど、あなたの妻で居続ける訳にはいきません──出て行かねばならないのでございます……」
「おまえや」非常な驚愕に声を荒げた、「それは非常につらいことだ、この家でおまえを不幸にする原因にさらしいていると分かったのだから。だがどうして出て行くのを望まねばならぬのか、想像すらできん──誰かがおまえに酷ひどい意地悪でもしたのでなければ……まさか離縁を望むつもりで言っているのでは有るまいな。」 震えて涙ながらに返事をした──
「離縁して頂けなければ、死んでしまいます。」
 しばらくの間沈黙したまま──この驚くべき告白の原因となる幾いくつかに無駄な考えを巡らせていた 。それから、幾らも感情を抑え切れないまま答えを返した──「何の落ち度も無しに今から里の人達に返せば、恥ずべき行いに見えるだろう。おまえの望みの納得できる理由を語ってくれるなら──恥ずべきことの無い重要な説明であれば、どんな理由でも受け入れて──離縁状を書いてやれる 。だが納得できる理由を提示できなければ、離縁には応じられん──我がお家の名誉は、非難を浴びながら維持されねばならんからだ。」
 そうして彼女は話さざるを得ないと感じて、何もかも語った──恐怖による苦悩を付け足した──
「あなたに知らせた今となっては、あの女は殺すでしょう──私を殺すでしょう……」 勇敢な男で幽霊を信じる性分では少しも無かったが、一時的に侍を驚かすには十分以上であった。しかし単純で自然な問題の説明はすぐに心へ届いた。
「おまえや、」彼は言う、「今はとても不安定になっていて、誰かが馬鹿げた話を聞かせたのだと心配している。離縁状は渡せない、この家で悪い夢を見たに過ぎないからだ。だが不在の間このようなやり方で、確かにおまえを苦悩させねばならなかったと非常に申し訳なく思う。今夜も城に居らねばならんが独りにはせん。二人の家臣に命じて部屋で見張らせよう、それで安心して眠れるだろう。立派な男達だ、どんな世話でもしてくれるだろう。」
 それから非常に思い遣り深く、非常に愛情を込めて話したので、ほとんど恐怖を恥じるようになり家に残る決心をした。
 
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09/18 05:54
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