38 春の夜の夢の浮橋とだえして峰に別るる横雲の空
藤原定家朝臣
【通釈】
38 春の夜の夢がとぎれて、峰に横雲が別れ、離れてゆく曙の空。本歌「風吹けば峰に別るる白雲の絶えてつれなき君が心か」(古今·恋二·壬生忠岑)。○守覚法親王五十首歌 建久九年(一一九八)頃の仁和寺での催し。○夢の浮橋 夢を不安定な浮橋に喩える。「世の中は夢のわたりの浮橋かうち渡りつつものをこそ思へ」(奥入·薄雲)。▽文選·高唐賦で宋玉が叙す、宋の懐王が昼寝の夢裡に巫山の神女と契ったという朝雲暮雨の故事を面影とする、妖艶な気分の濃い春の歌。定家卿百番自歌合に自選している。