守覚法親王家五十首歌に
40 大空は梅のにほひに霞みつつ曇りもはてぬ春の夜の月
藤原定家朝臣
【通釈】
40 大空は梅の匂いのために霞んでいて、といっても曇りきってもしまわない春の夜のおぼろ月が出ている。本歌「照りもせず曇りもはてぬ春の夜のおぼろ月夜にしくものぞなき」(大江千里集)。 五五。○上句 梅香が充ち満ち、あたりが霞んでいるさまをいう。これ以前「足引の山の端ごとに咲く花の匂ひに霞む春の曙」(拾遺愚草·花月百首)と詠んでいる。○下句 本歌に拠った表現。これ以前建久二年に「冴ゆる夜はまだ冬ながら月影の曇りもはてぬけしきなるかな」(拾遺愚草員外·一字百首)とも詠む。▽定家卿百番自歌合に自選した歌。