百首歌たてまつりし時
44 梅の花にほひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ
藤原定家朝臣
【通釈】
44 梅の花が匂いを移しているわたしの袖の上に、軒端を洩れてさし入る月の光が、梅の匂いと競い合うかのように映るよ。○百首歌 正治二年院初度百首。○三─五句 袖に月の光が映るのは、袖が懐旧の涙に濡れているため。▽「又の年の春、梅の花盛りに、月のおもしろかりける夜、去年を恋ひて、かの西の対に行きて、月の傾くまで、あばらなる板敷に伏せりてよめる 在原業平朝臣 月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」(古今·恋五。伊勢物語·四段にも)と歌われたような状況。