百首歌たてまつりしに、春歌
52 ながめつるけふは昔になりぬとも軒端の梅はわれを忘るな
式子内親王
【通釈】
52 じっと物思いにふけりながら見つめている今日は昔のことになってしまっても、軒端の梅はわたしのことを忘れないでおくれ。○百首歌 正治二年院初度百首。○下句 「散りぬとも花はにほはぬ春もあらじ軒端の梅よわれを忘るな」(唯心房集)のような類想歌がある。「軒端の梅」は軒近く植えられた梅。▽「東風(こち)吹かばにほひおこせよ梅の花主なしとて春を忘るな」(拾遺·雑春·菅原道真)の古歌を念頭に置くか。源家長日記は内親王没後大炊御門殿の梅を見てこの歌を思い起こし、「ことしばかりはとひとりごたれ侍りし」という。三百六十番歌合に載り、定家十体で濃様の例歌とする。